【壊乱】#047

2017.06.09

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。
第47話。

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 決して広いとは言えない場所で、軽微な武装を付けた兵士が何人も出入りを繰り返している。箱に荷物を詰めて運び出している人が一番多いだろうか。
 圧迫感と人いきれにやられそうな空間に、異質なスペースが区切られている。後から強引に隙間を作ったのか、区切りになる部分へ、元の場所にあったらしい荷物が積み上げられている。
 ようやくフォレスタへ到着した我々がネウロを訪ねて行くと、その簡易な執務スペースに案内された。立ったまま書類に目を通しながら、ヒューリィに指示を出させている。書類を挟んだボードを持ったまま、かおがこちらに向けられた。
「で、どこをほっつき歩いていたんだ?」
「どこをって」
「まぁ、ただ遊んでいただけではなさそうだが、自分たちの使命がどれほど重いかは、理解しておいてもらいたいものだな。っと、君」  箱を胸に抱えて通りかかった兵士を呼び止めた。兵士は迷惑そうな表情を浮かべながらも足を止める。
「ここの机と椅子は使ってもいいのかな」
「ええ。どうぞご自由に、と仰せつかっています」
「そうか。ありがとう」
 兵士は軽く会釈をすると、そのまま詰所を出て行った。胸に抱えていた箱には、フォレスタ軍の紋章と誰かの名前が書いてあった。
「好意に甘えて使わせてもらおう。まあ、座れ。ヒューリィ」
 ネウロの目配せに、ヒューリィが頷く。彼は目の前にいた兵士から地図を受け取ると、我々の座った机の上に広げた。積み木のような重石を置いていく。
「今置いた赤い印が標的、青い小さな丸がフォレスタ軍の前線だ。我々は……」
 森の中に赤くて大きな三角が置かれている。フォレスタとの間を塞ぐように青い丸印が並んでいた。ネウロの指がフォレスタの真上に置かれている。
「先行しているフォレスタ軍と協力しながら、標的の撃破に当たる。森林での戦いに慣れているフォレスタ軍が苦戦する相手だ。気を引き締めてかからねば、我々の全滅もあり得る。心して欲しい。いいかな?」
 ネウロの視線がまっすぐ刺さる。頷いて返すのがやっとだ。
「早速準備にかかってもらいたいが、どうかな」
「どうと言われても、情報が少なすぎる」
 アレンが言った。
「敵はとにかく強大だ。味方の戦力は時々刻々と減少している。現在も状況は進行中。肉の壁を築くのが精一杯。他に必要な情報は? 遠慮なく質問してくれ」
「肉の壁……?」
 周りで忙しなく動いている兵士へ目をやる。軍の紋章が描かれた箱はどんどん運び込まれ、空いている箱にとにかく荷物を詰め込んでは、次の箱に荷物を詰め込んで行っている。
「コレはそういう戦いだ。あの竜を屠るまではな」
 荷物を詰め込んだ箱を無理やり閉じ、兵士の胸に抱えられて外へ出て行く。耳を澄ませすと、遠くの方で女性の泣き叫ぶ声が聞こえて来る。
「君たちが寄り道で得た情報も、無駄ではなかろう。オーウェンの残したという警告もな。だが、我々はまず目の前の被害をなくしたい。一人の軍人としてな」
「遺体の回収は」
 ドルトンが拳を固く握り締めながらネウロを見る。
「出来ると思うか?」
「じゃあ、あの箱は」
「死亡が確認できた者の遺留品だ」
「くっ……」
 ドルトンの顔に怒りの色が走った。拳を握る腕に太い血管が浮かび上がる。
「じゃあ、今すぐにでも」
「無策に戦って命を散らそう、と? それが自分の隊長が下した判断だとしたら、いい作戦だ、とは言い難い。違うか?」
「その通りだよ。だから質問させてもらう」
 アレンが率先して、敵の情報をネウロから聞き出していく。
「とりあえず、見た目の特徴とか、攻撃の特徴とかは分からないのか。今のままでは対策も立てられん」
 ネウロはヒューリィに目をやった。彼が手元の書類をめくりながら回答する。
「証言によれば、『碧い山のようだった』という声もあれば、『蔦を纏った竜のようだった』という声も報告に上がっている。巨体で植物のような魔獣らしい、というのが着実に言える範囲の情報だ。また、『触手による攻撃を受けた』とか、『蔦に殺られた』という証言も得ている」
「山と来たか。随分とデカいな」
「それって、俺たちがさっき戦ったような化け物と同じってことか?」
 ドルトンは声を震わせながら、アレンに問いかけた。
「いや、全く同じではないだろう。そんな魔獣が捕虫植物のような狡いやり方を取っているとは思えない」
「だったら、燃やせば済む話だろう?」
「それも賢いとは言い難い。森を全て焼き尽くすつもりでないと、そのやり方では倒せんだろう」
 アレンの表情がどんどん曇っていく。
「それって、まさか」
「そのまさかだろうな。嫌な予感しかしない」
 ーーいにしへの神。アレンもグレイシアも、あの森は不思議な場所だと言っていた。
「力場、霊場の森。そこに現れた『荒ぶる獣』」
「正しく、『神殺し』ということか」
 ネウロの言葉に、アレンが頷いた。
「殺してはならん、と?」
「ああ」
「では、この現状をどうする?」
 ネウロは詰所の方を顎で指した。荷物を詰めていた兵士が手を止めて、顔をこちらに向けている。
「奴を討たねば、もっと多くの兵が死ぬ。貴様は、還らぬ者を待つ女にどう説明する?」
「そんなこと、分かっている。分かっているさ……」
 アレンは机を叩いた。
「じゃ、じゃあ、生け捕りにするってのは?」
 ドルトンは、うなだれたアレンの背中に言葉をかけた。
「森の化身に近い存在を、倒すどころか生け捕りにする、だと?」
 ネウロの鋭い視線を、ドルトンはまっすぐ見つめ返す。
「どれだけの犠牲を出すつもりだ?」
「犠牲はこれ以上増やさねぇ。でも、神殺しも、森を焼くのも選ばねぇ」
「随分と甘い決断だな。何も失わず、何かを成し遂げられるだと? そんな覚悟で何が出来る。何を成せる? そんな甘っちょろい精神だから、貴様らは……」
 椅子から腰を上げたドルトンの動きが、途中で止まる。ネウロの目の前に、ヒューリィの剣が突き付けられていた。
「ヒューリィ、貴様っ」
 ネウロの鋭い睨みも気にすることなく、ヒューリィは淡々と剣を鞘に納めた。
「身を弁えるのも、上に立つ者の嗜みだ。分かるな?」
 ネウロは苦い表情を浮かべながらも、ヒューリィの視線に頷いた。
「で、隊長殿はどうされたい?」

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【壊乱】#001

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。 第1話。

執筆者プロフィール

長谷川雄治(はせがわ・ゆうじ)

物書きな作れるWebコンサルタント。
HTML/CSSのマークアップやWordPressのカスタマイズ案件を経験し、サービス構築やブランディング、サイト設計や戦略プランニング、各種原稿、書類作成まで担う。
独自色の強いコンテンツマーケティングの人という立ち位置も見出だしつつあり、不足しているものを補うべく、日々実践中。

2017.06.09

2018.05.02

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