『横浜駅SF 全国版』を読んでみた

2017.09.19

インプット、アウトプットの息抜きに新着図書として借りた本。筆慣らしにまとめてみる。

この記事は 約 4 分で読めます。

著者柞刈 湯葉
版元KADOKAWA

「工事の終わらない横浜駅」をネタにしたSF

関西の人間には縁が浅いのだけれども、「横浜駅」といえば「完成しないもの」の代名詞だったりするんだろうか。とにかく工事が続いていて、一向に終わる気配を見せないモノ、なのだろう。そんな「横浜駅」の工事が終わらないのは、「実はなんらかの背景があるんでないか」あたりから、妄想を膨らませて出てきた世界観?

どういう風にネタが盛り上がって出来上がってきたのかは、探せば見つかるのだろうけど、まぁそういう「ネタ」にひょんなことから命が吹き込まれて、「横浜駅」同様構造体を広げていったのが今作なんだろう。ちなみに、今回初めて読んだのだけれども、これはどうやら二冊目。前作を読まないと、「自動改札」の件や「エキナカ」やら、「横浜駅の自己増殖」やらは掴みきれないんだろうなと思いつつ、現状の読後感でまとめてみる。

中身は案外まとも、というかフツー

「ネタに振り切った小説っぽいし、SFとしては大したことないんだろうな」と思って読んでみたモノの、中身は案外しっかりしている。文体も良い具合に出来上がっていて、読み応えも嫌いではない上に、物語自体も奇をてらった中身にはなっていない。SF小説としては、全然普通というか昨今の文芸作品としてはそこそこ「書く力」がある方な気がする。これはきっと、書き手の力量がそもそも商業出版レベルだったということなのかな。

いわゆる「なろう系」とか「ラノベ」に比するのも申し訳ないのだけれども、大分書き慣れている印象を受ける。編集さんも良かったのだろうけど、小説、物語としてのレベルは普通に高いし、これぐらい味わいのある小説というのは最近少ない気がして、ストーリーテリングの旨さに走らないところは、個人的には好みの部類。

ただ、フツー

『夏への扉』とか、ジョン・ヴァーリィ的な「物語の中にSFが織り込まれている」系統の物語としては全然悪くはないんだけれども、特異に走った気がするキーワード、「横浜駅」その他の属性を鑑みると、良くも悪くも「フツー」の範囲にとどまってしまったのかな、と。アイテムとしては決して悪くはないし、さじ加減も程々で読みやすいんだけれども、キーワード的、ギミック的には生かされているかと言うと、「正直微妙」と言わざるを得ない。

これが20世紀のSFなら、何の問題もなかった。もっとSFな要素を核に構成しても良かったんだろうけど、ギミックの尖り方や、ギミック化していく過程やそのインパクトに比すると、イマイチ「普通」の感がある。あるいは、まだまだ「序の口」に過ぎないから、ここから広がっている物語の全容を捉えきれていないから、そういう評価を下さざるを得ないのかもしれない。

これぐらいの活かし方だと、他の要素、キーワードでも良かったよね、とも思うし、「なぜ横浜駅か」も要検討な気がするし。これでこの発想を、「KADOKAWAの版権になったから」と封印されてしまうのも、勿体無い気もする。もっともっと尖っても良かったし、もっともっと遊んでしまっても良かったんじゃないのかなぁ、とか。

リアルはリアルなんだけど、リアルさと筆力が足枷

「リアル」といえば聞こえはいいけれども、嫌な言い方を持って来れば「妥当」かな。多分書き慣れている人だろうし、ブレーンも商業的にこなれている人たちが付いているだろうから、これぐらいがベターだったんだろう。あんまりビビッドなとんがったものを目指すよりは、「リアル」という「妥当」さに落ちつけた方が良かったという判断も分かる。妥当にした方が書きやすいのも分かるしね。

でも、もっと行けたと思う自分もいる。商業的にはそれだと大ゴケするんだろうけど、せっかくのアイディア、ギミックなんだからもっとぶち上げてみて、ど変態な仕上がりにしてしまっても良かったんじゃないかと。多分これが、創元社やハヤカワ辺りが手をつけていたら、もっと振り切らせる判断を下した気がする。いや、何もKADOKAWAが悪いとか、筆者が悪いとか言うつもりはなくて、尖ったバージョンも見たかったなぁという、ただそれだけの意見。

それこそ、この「完成しない横浜駅」をギミックにしたシリーズはシェアワールド的にもっと広がってもいい気がするし、二次創作が出てくるなら、それはそれで面白い気もするし。その限りない感じ、底知れない感じ、ずーっと果てなく増殖する感じがきっと「横浜駅」なんだろうから、これだけに留まらず「新しい横浜駅」のイメージを作ってもらえれば、読み手としては楽しいのかなぁというところ。

執筆者プロフィール

長谷川雄治(はせがわ・ゆうじ)

物書きな作れるWebコンサルタント。
HTML/CSSのマークアップやWordPressのカスタマイズ案件を経験し、サービス構築やブランディング、サイト設計や戦略プランニング、各種原稿、書類作成まで担う。
独自色の強いコンテンツマーケティングの人という立ち位置も見出だしつつあり、不足しているものを補うべく、日々実践中。

2017.09.19

2018.04.29

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