Vol.18 日本らしさを考えてみる 6

2019.08.23

書籍をダシに、書評ともいえないところから、個人的に思っていること、考えていることを好き勝手に書き散らす試み第6弾。今回は『測りすぎ』という書籍をきっかけに、思うことを拡げてみる。

この記事は 約 8 分で読めます。

『測りすぎ なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?』

ジュリー・Z・ミュラー著 松本裕訳 みすず書房

2019年4月26日初版の、「測定すること」の弊害や、「測定基準」にまつわる問題、主にアメリカ国内の様々な社会問題について批判の目を向けている一冊。能力給にまつわる実力主義、実績測定の難しさ、ランキング至上主義に対する批判、特にIT化することによる情報の質の低下、説明責任、説明できることとリスクテイクに対する抑圧、忌避、「上澄み」問題など。色んな問題を、「測定(測りすぎ)」という観点から見つめている。

何でもかんでも測りがちな世の中、IT化、デジタル化を推進するこのご時世にあたって、非常に際どいポジションから痛快な批判を繰り広げている。その勇気を讃えたい。

中で展開されている話題自体は、ほぼアメリカ国内の問題で、独自の問題というには広がりのある話題が多いものの、日本の諸問題にもそのまま当てはめるには、少々難がありそうな印象。素直に読後感、学んだことを生かしてもいいのだろうけど、一捻り、二捻り加えて、個人的に言いたいことを広げてみよう。

IT/デジタルは基本的に「余計なモノ」

こだわりすぎると生産性を落とす、やるべきことを後回しにしがち

端末やサービスを提供する側の様々な戦略もあり、コストがめちゃくちゃ下がってきたITやデジタル界隈。スマートフォンやタブレットのように、「誰にでも使いやすい」状態もどんどん整っていて、他の「難しい作業」や「やるべきこと」よりも手をつけやすく、また目に見えて楽しくなるような体感に、ついつい時間を割きやすくなる。

日本の中小企業や、キラキラ系界隈で引っかかりがちなトラップがコレ。本来やるべきこと、時間やエネルギーを割くべきことから目を背けやすく、本来得るべき利益や関係を結ぶべき顧客、提供すべき商品やサービス、ユーザー体験から遠ざかっていく主要因。確かに簡単だし、デジタルやIT以外の手段、ツールではもっと多くのコストがかかってしまうし、何らかの結果を得やすい路線でもあるだろうけど、コレばかりをやりすぎてしまうと、どんどんやるべきこと、目指すべきところからは離れていってしまう。

IT、デジタルツールが生み出す成果の仕上がり、クオリティに対する無関心さも気になるところ。「自分で作ったから」とか「自分が満足するように指示したから」といったところに満足感や安心感を抱きやすいのか、あるいはツール側で「いいようにしてくれている」という絶大な信頼があるからか、どんな出来上がりであっても客観的な判断ができない、美醜を判断する真っ当なリテラシーを持ち込むことができないらしい。

結果、せっかく作ったのに残念な受け止められ方をしてしまうデジタルツール、時間をかけた割にはがっかりな成果しかもたらさない集客ツールが生まれる、積み上がってしまうというのも、よく見かけるIT/デジタル化の弊害だろう。

ITやデジタル云々以前に、「内向き意識」を払拭しないまま、ITやデジタルツールを用いて何かしようとしても、客観視が不十分、需要側、買う側から見たコミュニケーションの組み立てというのができていない。最初のボタンを掛け違えたまま手をつけて、最後の受け止められ方の部分でも間違えたまま届いてしまう。IT、デジタルでやりたかったこと、あげたかった成果や利益に結びつけるというのが、そもそも難しいんだというのを、改めて念頭に置いておいてほしい。

まずは、IT、デジタルツール以外でやっておくべきことをしっかりやる、そこを十分に注力した上で、考え方やマインドセットもきっちり見直し、専門家に委ねる、サポートを求めるというところまでやる。プラスアルファにしかすぎないけど、プラスアルファだからこそ「よそはやっていない」レベルまで、徹底的に質にこだわる、コスト(=予算)をかけるようにするのがモアベターだろう。

どれだけ間違っても、経営者自身の時間、オーナー自身の時間を目一杯割いて、主従が逆転したような時間の取り方、リソースの配分をしてしまうようなことは、割けた方がいい。

また、やり始めると色んなものが計測できる、測れるだろうけど、はかられやすいところ、分析をしやすいところ、対策を打ちやすいところばかりに目を向けてしまいがちになるので、そこも気をつけていただきたい。ついつい追いかけやすい数字を追ってしまうけれども、そこの対策に時間を割く、コストを割いたとしても得られるメリット、利益はそれほど大きくはない。コストパフォーマンスとしては決して高くない取り組みだと思うので、そこへ力を注ぐよりは、もっとインパクトの大きい部分、自分でハンドリングしやすい得意分野、「やるべきこと」に向き合う、そこにリソースを割くようにした方が賢明でしょう。

「測れること」、「説明できること」に力を注ぎすぎ

前人未到、未来、見えにくいものは計測できないし、説明もしにくい

長いデフレを、ITやデジタルがより強化した側面もあり、「測れるかどうか」わからなかった時代、「測ること」が当たり前でなかった時代に比べると、輪をかけて「コストカット」や「コストダウン」、投資に対する「説明(責任)」を求めるようになっている気がする。

失敗したくないという気持ちもわかるし、「限られたリソースをうまく配分すること」に目が向きやすい雇われ社長、サラリーマンではどうしても、「必要なコストをかけてでもリターンを狙う」思考より「コストダウンを上手にやって、差分を生み出す」思考になりがちなのも、よく分かる。

日本の場合はさらに、「身内意識」、「社内政治」や「年長者に対する権威主義」も蔓延していて、「前例のないこと」(=計測しにくいこと)に対する不安感、拒否感はそれなりに強い。客観性の問題よりも、身内の納得感、「上に逆らわないかどうか」を重視されがち。

この二つがかけ合わさったところに、「工夫次第で何でも計測できそうな環境」が用意されたり、根強い「(ズレた)PDCA信仰」が根付いていたりすると、「投資をするからには、回収できる見込みを説明しろ」になりがち。それも、長期的な取り組みは忌避され、短期的に利益が出やすいものへ目が向きがちになる。

これでは、まともなイノベーションは望めない。インパクトの薄い、新フレーバー。ちょっとだけ組み合わせを変えた程度の「エッジのたった」新顔ぐらいしか出てこない。これで、大きな利益なんて出せるはずもないし、生産性が格段に上がるというのも期待はできない。

日本が遅れていて、キャッチアップするための参考になる物、前例が何かある状態であれば、そのスタンスでも問題はなかったが、後ろを追いかけられる状況というのは、どんどん減っていく。きっちり追いかけるだけの投資も、投資する側が萎縮していたり、査定するだけの目利き力がなかったり、肚が据わっていなかったり。許容できるリスク、許容できる時間というのも相当小さくなっている。これでは、先をゆく人たちより見劣りするもの、多少効率が上がった程度のものしか生み出せない。

今後の日本がやるべきこと、目指すべき姿勢というのは、基本的にそういうことではない。どこを向いてもパイオニア、先頭を走るプレイヤーとして、先の見えない世界、前人未到の未来に向かって邁進する、ビビることなく自由な価値観、美学、己の道を追求すること。今までになかった想像を、現実のものとすること。それをみんなで分かち合えるようにすること。

かつての日本人、職人たちが目指してきたこと、高度経済成長の時代に行われていたことを、もう一度やり直す。それをスムーズにこなすため、よりよく「身内以外」、外側と関われる手段を整えること。そこに、初めてITやデジタルを持ってくる。よく分かっている専門家、クリエイターを動員する、味方につけること。そうすることが、日本でなすべきこと、のはずなんだけれどもこの10年、20年ぐらい、なんともズレたことしかやっていないような気がして仕方がない。

やっぱり、「測りすぎ」

測れないところ、分からないところへ、肚を括って進んでいく。自分で道を作っていく

簡単に予測なんてできないし、投資を回収するにしても、短いサイクルでできるとは限らない。そのまま真似をする状況はなく、全部自分の身体一つ、自分たちの仲間の力だけで進んでいく、失敗を積み重ねて道を切り開いていく、新たな世界を描いていく、形にして行く他ない。そういう路線。

こういうところを進んで行くため、五感だけではどうにもならないこと、身近な仲間だけではどうにもならないことを、ITやデジタルで解決して行く。前に進むため、より危ないところへ入って行くために「測る」。怖いから、痛いから、面倒臭いからとやるべきことから逃げるため、やりやすいことに時間を費やすために「測る」のはよろしくない。よろしくないんだけど、自分も含めてついついやりがちだよね、と。

「測りすぎ」やIT、デジタルを理由に、道の追求、自己実現や自分の役割から遠ざかるのは、もうそろそろ止めにしよう。勇気を出して、とにかく真摯に。なすべきことを成すために、測りすぎていないか。よくよく考えたいし、気をつけたいね。

執筆者プロフィール

長谷川雄治(はせがわ・ゆうじ)

物書きな作れるWebコンサルタント。
HTML/CSSのマークアップやWordPressのカスタマイズ案件を経験し、サービス構築やブランディング、サイト設計や戦略プランニング、各種原稿、書類作成まで担う。
独自色の強いコンテンツマーケティングの人という立ち位置も見出だしつつあり、不足しているものを補うべく、日々実践中。

2019.08.23

2019.08.23

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