【壊乱】#001 【壊乱】#001

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 雨が降り始めた。
 路面を叩く細かな雨粒。かすかな雨音は、急ぎ足で行き交う人々にかき消されてしまう。
「とうとう、降り出しちゃいましたね」
 中庭に続く廊下から、女性が入ってきた。胸元には揃いのロゴが入った、白いタオルを抱え、左手にある事務室へ入っていく。
「お茶入れますけど、フラムさんもいかがです?」
 受付用の小窓を開けて、僕の方を見た。
「ありがとう、エマちゃん。でも、」
 隣に置いたヘルメットを膝の上に抱え、エマを見やる。
「もう行くからさ」
「まだ、降りそうですけど」
「通り雨っぽいし、今のうちに」
 待合のソファから腰を上げる。
「そうですか。じゃあ」
 エマは、タオルの山から一枚取り、サッと畳んだ。事務室から出てきて、タオルを差し出す。
「持って行ってください。どうせ、濡れながら行くんでしょ」
「うん、まあね。ありがとう」
「じゃあ、いってらっしゃい」
「行ってきます」
 タオルを受け取って、カバンに入れる。駐輪場に足を向けかけて、見送ってくれているエマの方を振り返る。
「あのさ、ブレイズでいいよ。昔からよく知ってるんだし」
 エマは微笑んで、「はい」とつぶやいた。
「じゃあ、また」
 軽く手を上げて別れを告げ、駐輪場に向かう。停めておいた魔導木馬を起動させる。木馬の背には、エマの名前とそれを打ち消すように刻まれた、1号の文字。その文字を覆うようにまたがり、ヘルメットをかぶる。
 魔導木馬の頭を駐輪場の外へ向け、右手のアクセルを入れる。魔導木馬は独特の浮遊感で浮き上がり、地面スレスレを滑るように進み始めた。

長谷川 雄治

長谷川 雄治はせがわ ゆうじ

2013年から、仮面ライターを掲げて活動中。
物書き&Web制作、コンサルティングが本業だと思い込んでいる、ただの変な人。