【壊乱】#004

2016.03.12

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。
第4話。

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 城内には大きな被害は見当たらない。兵士を横たえた柱や絨毯に血の跡が残る程度。ここだけは守り通そうとし、国王みずからが指揮を取り、勇敢に戦ったと伝え聞いた。
「おお、ここだここだ」 
 先に入るアレンに続き、待合室に足を踏み入れる。懐かしい顔が見える。彼らは各々、思うままに立ったり座ったりしている。半年前までは毎日のように入り浸っていた詰所。壁には付近の地図が貼られ、要注意の魔物の情報や、討伐予定地域が書き込まれていた。討伐が完了していない地域は残りわずかのようだ。
 大テーブルに座っていた大男が顔をこちらに向ける。顔を斜めに横切る、大きな傷跡と、それには似つかわしくない大輪の笑顔と大きな声を投げかけてきた。
「おお、アレン。それにーー、ブレイズ? ブレイズじゃないか」
 大男が、戸口に立っていた僕の方へ駆けてきた。僕の前に立っていたアレンを軽く押しのけ、僕の両肩に手を置く。
「久しぶりじゃないか。元気にしてたか、おい」
 テディベアを与えられた少女のように、大男は僕をもみくちゃにした。
「剣を置いて、塞ぎ込んでると聞いてたが、もう大丈夫なのか」
「ああ、まあ」
「退団すると聞いた時も驚いたが、それ以上に驚いたぞ。お前ほどの男に一体何があったんだ」
「ええっとーー」
 大男が次の言葉を心待ちにしているようで、穴が開くように見つめてくる。それとは別の方向から射るような視線も感じる。そちらに目をやると、今までそこで立っていたと思われる女性が、腕組みを解いて部屋を出て行った。
「まあまあ、ドルトン。積もる話はあとでゆっくりさ」
 アレンは大テーブルの椅子に腰を下ろし、空いている椅子を軽く叩いた。
「おお、そうだな。まあまあ、座れや」
 ドルトンは、僕の背中を押してアレンの方へ歩かせる。途中、見知った顔に目で挨拶しながら歩き、椅子の前まで来ると、ドルトンに促されるままに腰かけた。ドルトンは隣に腰を下ろし、目に付いた別の男と賑やかに話し始めた。アレンはアレンで、やや線の細い男たちと談笑している。
 僕は周りを見回し、同時期に退団した面子を一人一人眺めていく。懐かしみながらそれぞれの顔を見ていると、どれほどの時間が経ったのだろう。先ほど、部屋を出た女性が戻ってくる。彼女が歩くと男たちは見てはならぬものを見るような目で追いかけ、触れてはならぬもののように一定の距離を保ったまま、自然と道を開けていく。壁の前で立ち止まり、こちらへ体を向ける。胸の前で腕を組み、ほんの一瞬目を合わせたかと思うと、すぐに視線をそらし、窓の方へ目をやった。
 金属音を小刻みに鳴らしながら、足音が一つ、近づいてきた。戸口に目をやると、大きすぎる兜をかぶった少年が、駆け足でこちらにやってきた。部屋の前で足を止め、一拍おいて肩を上下させた後、握りしめていた紙を胸の前に掲げ、兜を押し上げながら、高らかに読み上げる。
「勇敢なる騎士団員の諸君、此度は誠にご苦労であった。知らせの通り、定刻となった。これより、私有物返還の儀を行う。名前を呼ばれたものから順に、隣室へ行き、目的の品を受領し帰宅せよ。以上」
 少年は、一気に読み上げると紙を巻き上げ、懐にしまう。視線を隣の部屋へやると、隣室から担当の兵士が出てきて戸口に立った。少年は踵を返し、いま来た道を来た時と同じように、武具の金属音を鳴らしながら駆けて行った。
 戸口に立った軽装の兵士は、ペンとボードを持っていた。明らかに面倒くさそうな顔で、気だるそうに立っていた。
「名前を読み上げるから、スムーズに行けよ。いいな、スムーズだぞ。じゃあ、クリス。クリス・アンダーソン……」

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【壊乱】#001

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。 第1話。

執筆者プロフィール

長谷川雄治(はせがわ・ゆうじ)

物書きな作れるWebコンサルタント。
HTML/CSSのマークアップやWordPressのカスタマイズ案件を経験し、サービス構築やブランディング、サイト設計や戦略プランニング、各種原稿、書類作成まで担う。
独自色の強いコンテンツマーケティングの人という立ち位置も見出だしつつあり、不足しているものを補うべく、日々実践中。

2016.03.12

2018.05.02

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