【壊乱】#005

2016.03.12

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。
第5話。

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 呼ばれた者から部屋を出て行く。少々もたついてはいるものの、元騎士団員の規律の良さは体に染み付いているらしく、大きな乱れは見られない。
「グレイシア。グレイシア・ハイランド」
 名前を呼ばれた女性は颯爽と部屋を出て行った。
「おい、ブレイズ」
 ドルトンが、こちらに身を乗り出した。
「お前、この後はどうするんだ?」
「特にないよ。復興支援も終わったしな。ドルトン、お前の方はまだ仕事があるんだろう?」
 ドルトンは窓の方をちらりと見て、小さく頭を振る。
「この雨だ。うちの工務店は、店じまいだ。アレンーー」
 ドルトンは、僕の後ろに座っているアレンの方へ顔をやる。アレンが体をこちらに向けた。
「お前んところの本屋も、雨の日は開店休業だろう。いや、雨は関係ないか」
「うるさいなぁ。他所のことなんか、口出すな。ほっとけ」
「まあまあ、そう怒るな」
 ドルトンは笑いながらアレンをなだめる。アレンは少々不機嫌そうに口を開く。
「で、なんだ?」
「おお、それだがな」
「ーー次。ドルトン」
 ドルトンはちらりと兵士の方を見て、すぐに顔を戻した。
「おい、呼ばれたぞ」
「まあまあ。すぐに行くさ。それで、だ」
「ドルトン。ドルトン・カーペンターはいないのか?」
 ドルトンは手を挙げる。
「居ますよ。いま行きますから」
「早くしろ。流れを乱すな」
「はいはい」
 ドルトンは立ち上がって、戸口に向かう。歩きながら振り返り、
「とりあえず、荷物もらっても、どっかで待っててくれや。飲みにでも行こう」
「おい、貴様」
 兵士は腰に佩いた剣に手をかける。
「わかりました。行きますよ」
 ドルトンは兵士の手を押さえ、部屋を出て行く。
 荷物を受け取った者から順番に、雨の降る城外へ出て行っている。順調に、詰め所の中は肌寒くなっていく。
 隣に座るアレンが口を開いた。
「ドルトンはああ言ってたが、ブレイズはどうするんだ?」
「まあ、どうせ雨宿りはしていかなきゃならないし、残ってるよ」
「そうか。じゃあ、俺もそうするかな」
「ーーアレン。アレン・ブックマン」
 アレンは立ち上がった。
「じゃあ、先に行ってくる」
「ああ」
 アレンは外套を外して、僕に押し付けた。そのまま振り返ることなく、部屋を出て行く。また一人名前を呼ばれ、数十人は居た詰め所に残っているのは、僕を含めてあと2、3人だった。
 聞き覚えのある足音が、また近づいてきた。足音が止まり、先ほどの少年兵が兵士の前で立ち止まる。兵士はボードに目を落としたまま名前を読み上げた。
「ーーブレイズ。ブレイズ・ハイランド」
 兵士と少年兵が同時に名前を読み上げた。兵士は、少年兵の方を見る。僕は外套を持ったまま立ち上がり、戸口に向かう。
 兵士に軽く目で合図をする。兵士は少しの間こちらを見やると、すぐにボードへ目を移した。部屋の外の回廊では、ドルトンが他の元騎士団員と話し込んでいた。こちらをじっと見上げる少年兵の方へ顔を向ける。
「ブレイズ元特務隊長殿でありますか?」
「ああ、僕だけど」
「ネウロ小隊長が後で話がしたいとのことです。荷物を受け取り次第、中二階のラウンジに来い、との伝言を賜りました」
「ネウロが? わかった。ありがとう」
 少年兵は居住まいを正して、敬礼を取る。
「では、失礼します」
 踵を返し、来た道を帰って行った。それを見送っていると、隣の部屋からアレンが出てきた。手には穴がいくつか空いた杖を持っていた。
「どうした、ブレイズ? 中で呼んでるぞ」
「ああ、なんでもない。ちょっとだけ用事ができた」
 アレンに外套を渡す。
「用事?」
「ネウロが呼んでるんだと。とりあえず、待っててよ」
「ネウロ? ネウロがどうしたってーー」
 アレンはまだ何か言いたそうだったが、部屋の中から係りの男がこちらを睨んでいる。「ごめん、後で」と言い残し、私有物の受け渡しに向かう。
 受け渡しの担当官は、椅子に腰掛けたまま、手元の書類を読み上げる。
「ブレイズ・ハイランドだな」
「はい」
「お前の私有物は……」
 隣に立っている兵士に目配せし、机の上に僕の荷物を置かせる。鈍い光を放つ刃と、輝きが幾分か足りない宝石が散りばめられた小刀。鞘には獅子の紋章が刻まれている。
「ハイランド家の宝剣か」
「ええ、まあ」
「他には何かあったかな」
「いえ、これだけです」
「そうか。では、持っていけ」
 担当官は椅子から立ち上がり、机の上の宝剣を両手で持ちあげてくれた。
「ありがとうございます」 
 宝剣を受け取り、一歩下がって頭を下げた。
「こちらこそ。お務め、ご苦労であった」
 担当官は、宝剣がなくなった手を下げ、握手を求めて右手を差し出した。僕はその手を握った。少し湿り気を帯びたその手は、とても力強く、とても暖かかった。

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【壊乱】#001

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執筆者プロフィール

長谷川雄治(はせがわ・ゆうじ)

物書きな作れるWebコンサルタント。
HTML/CSSのマークアップやWordPressのカスタマイズ案件を経験し、サービス構築やブランディング、サイト設計や戦略プランニング、各種原稿、書類作成まで担う。
独自色の強いコンテンツマーケティングの人という立ち位置も見出だしつつあり、不足しているものを補うべく、日々実践中。

2016.03.12

2018.05.02

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