【壊乱】#006

2016.03.12

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。
第6話。

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 改めて頭を下げ、部屋を後にする。
「おお、ブレイズ」
 別の男と話していたドルトンが、顔をこちらに向けた。手持ち無沙汰にしていたらしいアレンが、こちらに歩いてくる。ドルトンは、今までしゃべっていた男に別れを告げ、彼もこちらに近づいてきた。
「それで、どこに行く?」
「その話だけど、用事を一つ片付けてからでもいいかな」
「おお、いくらでも片付けろ。なんなら、ついていくぞ」
 ついてくる、のか。ドルトンと並んで歩きながら、アレンと合流する。回廊の真ん中で輪を作って立ち止まる。
「アレン、ブレイズは用事があるらしい。お前も行かないか?」
 アレンは眉根を寄せる。
「ついて行ってもいいのか? 邪魔になるだろう」
「それも、そうだな。どうだ、ブレイズ」
 ドルトンは、僕の顔を見る。詰め所で待っていてもらってもいいが、時間が読めない。
「ついて来てもらおうか」
 ドルトンの後ろにある螺旋階段へ足を向ける。アレン、ドルトンが一拍遅れてついてくる。
「上のラウンジで、ネウロが待っているらしい」
「ネウロか。また懐かしい名前だな」
「やっかいな話じゃなきゃいいけどな」
「ぜひとも、そう願いたいね」
 螺旋階段を登る。詰め所に近い階段の先には、騎士団員向けの生活スペースが広がっている。右手が居住区画、左手が飲食関連や娯楽関連の設備になっている。
 給仕係や掃除係の職員に挨拶をされながら、ラウンジまでまっすぐに進む。歩くたびに揺れる腰の宝剣と、絨毯を踏みしめる感触とが、妙に懐かしい。
 他の区画に比べると、豪奢な調度品が見えてきた。立派な造りのドアの前で足を止め、扉を押し開ける。やや重い感触を手に感じながら、部屋に足を踏み入れた。
 浮世離れした、ゆったりとした広間。騎士団の制服を着た男が二人、テーブルを挟んで椅子に座り、談笑していた。付き人のようなメイドが、こちらに気がついたようで、体をこちらに向け、会釈をしてくれた。それに気がついたのか、一人がこちらに顔を向け、椅子から立ち上がった。
「おお、ブレイズ」
 男は椅子から立ち上がり、こちらに歩いてきた。
「フューリィ、フューリィ・メイソンか。久しいな」
 後ろにいたドルトンは、僕の前に出て、フューリィと固い握手を交わす。フューリィはドルトンの熱い歓迎を受けながら、僕らの方へ顔を向ける。
「ブレイズ、アレン。元気にしてたか」
 フューリィはドルトンの握手をほどほどに離す。
「まあ、立ち話もなんだ。中へどうぞ」
「ああ、ありがとう」
 フューリィに促されるまま、テーブルまで導かれる。椅子に座ったまま、ゆったりと紅茶を飲んでいる男、ネウロは顔だけをこちらに向けた。
「やあ、ブレイズ。いや、ハイランド特務隊、か。まあ、楽にしてくれ」
 ネウロは、メイドにカップと紅茶の追加を頼んだ。フューリィと話し込んでいるドルトンはそのままに、僕とアレンはネウロの向かいに腰を下ろした。
「退団して半年。復興に力を尽くしてくれたらしいな、ブレイズ。父上も、お前のおかげで復興が早まりそうだと、随分喜んでいたよ」
 メイドがワゴンを押して戻って来る。カップに茶を注ぎ、僕らの前に置いた。ネウロは手で茶を勧める。アレンは目の前のレモンと砂糖を入れ、茶を飲んだ。
 ネウロが茶を飲むのをじっと見つめる。その表情に変化はない。
「で、話っていうのは、それか?」
 ネウロはカップをソーサーに起き、値踏みをするようにこちらを見やる。目の下には、隈が出来ていた。
「まあ、そう慌てるな」
 ネウロはゆっくり足を組む。
「どこから話すか……。まあ、まずは『あの日』だな」
 僕の後ろで散々喋っていたドルトンが、急に言葉を切る。ヒューリィとともに、ネウロの方を見る。
「あの日に受けた被害は、人も街も順調に癒えている。時間さえあれば、あの日以前を取り戻すこともそう難しくはないだろう。だが」
 ネウロは椅子からゆっくり立ち上がり、腰の後ろで手を組んで、窓の方へ歩いていく。
「ーー見えない傷はどうだ?」
 ネウロは僕に視線を向ける。
「魔獣と戦う恐怖、家族を失う哀しみ、またいつ襲ってくるかもわからないという不安……。このまま、いつもの毎日を繰り返して、いつか癒えるか?」
 じっと僕の顔を見つめ続けるネウロは、口の端を歪めて笑みを浮かべる。
「再発防止、予防。そのために、我が騎士団は定期的な遠征と魔獣の討伐を繰り返しているが、それでは『あの日』がまた、起こるかもしれない」
「だからって、どうしようっていうんだ。あの日がなぜ起こったのかの検証も不十分、討伐対象の地域も魔獣もわからない。そもそも、俺たちは騎士団を止めたんだ。そんな話ーー」
 アレンは椅子から立ち上がり、テーブルを叩いた。その拍子に、砂糖をたっぷり入れたレモンティーが、テーブルの上に溢れる。
「アレンの言う通りだ。我々には何の手立てもなかった。今までは」
「今まではって?」
 アレンが身を乗り出す。ネウロは落ち着けと言わんばかりにジェスチャーをつけ、ゆっくりとこちらに戻ってくる。
「お前たちが一般市民に戻った後、私は必死に調べたんだ。そして見つけたんだ」
 ネウロは、自分が座っていた椅子まで戻り、そのまま腰をおろした。ドルトンも、アレンもネウロの方に身を乗り出している。ネウロは心底楽しそうに笑いながら口を開いた。
「『あの日』を繰り返さない方法、いや、魔物も魔獣も消し去る方法が一つだけある」
 あの日を繰り返さない方法? そんなことが、本当にできるのか?
「本当にあるのか? そんな方法が」
 アレンは上ずった声で問いただす。後ろからドルトンが、アレンをなだめるように両肩に手を置き、軽く叩く。
「アレン、疑うのはわかるが、まずは聞こうじゃないか。なぁ、ブレイズ」
「あ、ああ」
「で、どうなんだ、ネウロ」
 ドルトンは、ネウロに顔を向ける。アレンは少し落ち着いたようで、椅子に深く腰掛けた。
「本当の話さ。ただ、難しくて誰も成し得なかっただけのこと」
「難しい?」
「ああ。なんせ、最強の魔獣と名高いドラゴンを殺すんだからな」

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執筆者プロフィール

長谷川雄治(はせがわ・ゆうじ)

物書きな作れるWebコンサルタント。
HTML/CSSのマークアップやWordPressのカスタマイズ案件を経験し、サービス構築やブランディング、サイト設計や戦略プランニング、各種原稿、書類作成まで担う。
独自色の強いコンテンツマーケティングの人という立ち位置も見出だしつつあり、不足しているものを補うべく、日々実践中。

2016.03.12

2018.05.02

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