【壊乱】#007

2016.03.12

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。
第7話。

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「……ドラ、ゴ……ン?」
 ほんの少し、鼓動が早くなった。細やかな息苦しさが、胸から首に登る。両肩には力が入り、全身が小刻みに震える。
「どうした、ブレイズ。大丈夫か?」
「大丈夫だ。アレン。ありがとう」
 意識的に呼吸を長くゆっくりにし、気持ちを落ち着かせていく。まだ、寒気が背中に居座っている。
「それで、ドラゴンを殺すのがなんだって?」
「まず、ドラゴンを殺せるだけの戦力を保持できれば、街の平和は確保される。さらに、ドラゴンが、魔獣の根源だという研究も出てきた」  ネウロがヒューリィに目配せすると、彼は腰の袋から、銀色に輝く鱗を一枚、取り出した。絹のように滑らかな光を反射するそれを、テーブルの上に置く。
「『あの日』に回収した、彼奴の鱗だ。ブレイズ、お前は見たことがあるな?」
 ネウロは、鱗を顔の高さにまで持ち上げる。
「ああ」
「これには、魔物が持つエネルギーと同質のものが秘められていた。それも、格段に強力なエネルギーがな。だが、エネルギーの放出が激しく、今はもう、ただの工芸品でしかない」
 ネウロは鱗をテーブルに戻した。アレンは鱗を拾い上げ、舐めるように観察する。
「たった一枚の鱗でも、並みの魔物の数百匹分。特別討伐クラスの魔獣で数十体分のエネルギーが観測されたが、それでもほぼ残滓といっていいものだったようだ。それを全身に溜め込んだドラゴンが、魔獣の存在になんらかの役割を果たしていると見るのは見当違いかな?」
 ネウロは、鱗をテーブルに置いたアレンへ視線を向けた。アレンは、メガネを押し上げてネウロの方を見る。
「まあ、妥当だろう。西の山のドラゴンを殺せば、平和そのものか、ヒントぐらいは得られるだろうな。だが、それはお前らが頑張れば済む話だ」
 アレンは茶を飲み干し、椅子から腰を上げた。
「さあ、帰るぞ、ブレイズ。ドルトンも」
 アレンはネウロに背を向け、入り口に向かってやや早足に歩き始めた。
「ーー本当に、それでいいのか?」
 ネウロの声に、アレンは足を止めて振り返る。
「確かに本件は、我が騎士団の悲願となりうる事案だ。戦力として確かだったとはいえ、すでに部外者の貴様らに頭を垂れて協力を申し出る筋合いはない。だが、因縁浅からぬ男が近くにいる。そいつは、誰よりもこの困難に立ち向かわねばならないように、私には思える」
 ネウロは立ち上がり、僕の肩に手を置く。
「アレン。お前は、友を地に伏したまま死なせたいんだな?」
「どういう意味だ、それは」
 アレンはネウロに詰め寄り、胸ぐらをつかんだ。アレンは眉間にしわを寄せ、ネウロの顔を見上げる。ネウロは表情ひとつ乱さず、アレンを冷ややかに見下ろす。
「他意はない。そのままだ」
「なんだと?」
「アレン、そこまでだ」
 ドルトンがアレンをネウロから引き離す。ネウロの身を守るように、フューリィも間に入る。ネウロは乱れた衣服を整えて、こちらに顔を向ける。
「ブレイズ、お前には分かっているんだろう?」
 ドルトンの羽交い締めから抜けたアレンも、僕の顔を見る。
「お前さえ良ければ、いつでも父上に話を通して正式な辞令にできる」
 テーブルの側に控えていたメイドが、ネウロに耳打ちをする。
「分かった。ありがとう」
 ネウロは、メイドを下がらせた。
「返事を聞きたかったが、次のブリーフィングがあるんだ。すまないな。フューリィ、先に行くぞ」
「あ、ああ」
 ネウロは、メイドに任せて居住まいを正す。メイドに身を任せながら、顔をこちらに向ける。
「ブレイズ、お前のためだ。いい返事を期待しているよ」
 メイドが手を止め、ネウロは上着の裾を払い、襟を正した。
「じゃあ、失礼する」
 僕に背中を向け、ゆったりと出口に向かって歩いて行った。

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【壊乱】#001

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。 第1話。

執筆者プロフィール

長谷川雄治(はせがわ・ゆうじ)

物書きな作れるWebコンサルタント。
HTML/CSSのマークアップやWordPressのカスタマイズ案件を経験し、サービス構築やブランディング、サイト設計や戦略プランニング、各種原稿、書類作成まで担う。
独自色の強いコンテンツマーケティングの人という立ち位置も見出だしつつあり、不足しているものを補うべく、日々実践中。

2016.03.12

2018.05.02

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