【壊乱】#009

2016.03.12

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。
第9話。

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 城前の交差点を、城壁に沿って右手に進む。右手のさらに奥には、主に城内勤務者向けの住宅街が広がっている。手前に位置する表通りには、彼らに向けた食料品店や酒屋が軒を連ねている。
 立ち食いの飲食店や、家族向けの食堂が並ぶ通りをまっすぐ進み、出てきた丁字路を、細い方へ曲がる。住宅街に向かって歩いていくと、段々あたりが薄暗くなってくる。通りを照らすガス燈に導かれて進むと、広めの公園が出てきた。
 公園を囲う植え込みの前に、バラック小屋が建っていた。手書きのウェルカムボードがその前に置かれている。
 ドルトンとアレンはその前で足を止めた。
「ここだ、ここだ」
「え、ここか? ちょっとボロくないか?」
「そいつは悪かったな。カーペンター工務店の突貫工事だ。文句なら、棟梁の親父に言ってくれ」
 バラック小屋の横に木馬を止め、ドルトン、アレンに合流する。入り口には、幌馬車が描かれた暖簾がかかっていた。
「このマークは、『幌馬車亭』の」
 ドルトンは暖簾を手で避け、こちらに顔を向けて口を開く。
「あれ、お前知らなかったっけ。幌馬車亭も、復興対象になってただろう。ここが移転先だよ」
 ドルトンを先頭に、入った。中は、ビールケースを利用した椅子や、テーブルが並んでいる。
 丹念にテーブルを拭いていた初老の男が顔を上げた。
「おう、らっしゃい」
「おお、おやっさん。景気はどうだ」
 ドルトンと男は、意気揚々と立ち話を始めた。確かにあの顔は、幌馬車亭の店主だ。壁に貼られたメニューも、幌馬車亭と同じらしい。
 アレンと僕は、向かい合って椅子に腰を下ろした。調度品こそ廃品利用の間に合わせに見えるが、店内は明るく、部屋の隅までチリ一つ落ちているようには見えない。
「中は綺麗だな」
「うん、そんな感じだ」
 カウンターの奥の暖簾をくぐり、若い店員がおしぼりを運んでくる。立ち話をしていたドルトンは、おしぼりを受け取りながら、店主に注文する。
「とりあえず、生ビール3つとつまみを適当に」
「あいよ」
 店主はカウンターの方へ引っ込んだ。ドルトンはアレンの隣に座る。
「ブレイズもアレンも、ご無沙汰だったんだって? 騎士団員の頃は毎日みたいに来てたのによ」
 ドルトンは、おしぼりで顔を拭きながら言った。テーブルに、注文の品が運ばれてきた。とりあえずの乾杯をする。
 突き出しを一口頬張り、ドルトンが言う。
「それで、ブレイズはこの半年、何やってたんだ?」
「大したことはしてないよ。ぼーっとしてる日もあったし、復興を手伝って、大工見習いみたいなこともしたり」
「へぇー。アレン、お前は実家の手伝いか」
「まあ、そんなところかな。時々、魔導石を使ったカラクリなんかは作ってたけどな」
「それで、あの木馬が動いとるんか。ほー」
 ドルトンは喋るのもそこそこに、食事を口に運ぶ。突き出しがよほどうまかったのか、若い店員にお代わりと追加のビールを注文した。
 アレンはそれを見ながら、呆れた顔になる。
「ドルトン、流石に突き出しのお代わりはダメでしょ」
「まあまあ、細かいことはいいだろう。ここの大将、毎日腕上げててさ。来るたびに料理が美味くなってるんだぜ? お代わりするだろう、普通」
「毎日? そんなに通ってんのか、お前」
「そりゃあ、通うよ」
 ドルトンは、追加の注文を受け取り、空になったグラスと食器を店員に渡す。
「『あの日』に店が潰されてよ。一ヶ月で元通りにするから待っててくれって、言ったんだけど、店が元に戻っても、味が落ちちゃしょうがねぇ、元通りじゃ意味がないって、次の日には屋台引いて営業してたんだぜ、あの人。突貫の工事で立てられるのがこの場所、この造りが限界だったのに喜んでくれてさ。店がたってから、毎日店に立ってるんだよ。応援したくなるだろう」
 店主の方を見る。穏やかながら、真剣な表情で料理を作っている。
「ま、お前の場合は美味いから毎日来てるんだろう」
「それもあるな。でもな、元通りじゃ意味がないって、言葉は俺の胸にどーんと突き刺さったのよ。どーんと」
 ドルトンは、空いている手で胸を叩いた。
「工務店としては、街の復興だって同じ気持ちで取り組みたいわけよ。前よりいい街にって。その言葉を授けてくれた人と毎日会って、心に深く刻み込みたいなぁとも思って、毎日のように来てるんだよ」
「前よりいい街、か。それはいいな」
「だろう? ブレイズ」
 ドルトンは、ジョッキに残っていたビールを一気に飲み干した。揚げ物と焼き物を運んできた店員に空のジョッキを差し出し、お代わりを注文する。
 出入り口が開き、若干冷たくなった外の空気が中に入ってくる。同時に、現役騎士団員らしい制服の男たちが団体で入ってきた。そこに続いて、さっき城で見かけた女性、グレイシアがさっと、カウンターに腰掛けた。食器を下げに来た店員に話しかけると、険しかった表情をパッと和らげた。

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【壊乱】#001

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。 第1話。

執筆者プロフィール

長谷川雄治(はせがわ・ゆうじ)

物書きな作れるWebコンサルタント。
HTML/CSSのマークアップやWordPressのカスタマイズ案件を経験し、サービス構築やブランディング、サイト設計や戦略プランニング、各種原稿、書類作成まで担う。
独自色の強いコンテンツマーケティングの人という立ち位置も見出だしつつあり、不足しているものを補うべく、日々実践中。

2016.03.12

2018.05.02

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