【壊乱】#010

2016.03.12

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。
第10話。

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「お前のために、って言葉は信用ならないが、前より良くしたいっていう気持ちは、ネウロも一緒なんじゃないか?」
 ドルトンは、運ばれてきたビールを受け取り、しゃべりながらジョッキに口をつける。
「王都とはいえ、狭い街だ。ドラゴンが出ただの、誰々が死んだだの、お前がハイランドの名を捨てただの、色んな噂話しが聴こえてくる。実際に、何かあったんだろう。だが、そんなことはどうでもいい。俺が気になるのは、お前がどうしたいかだ。ブレイズ」
「まだ、自分自身どうしたいのか分からない。決めかねてるよ」
「そうか。ま、俺としては元上司が街で燻ってるよりは、世界の命運をかけて剣を振るってて欲しいけどな。俺も久々に暴れたくなってきたしな」
 ドルトンは、口元にビールの泡をつけて笑った。黙々と酒を飲み、揚げ物に手をつけていたアレンは、やや驚いた顔でドルトンを見る。
「ドルトン、お前もしかして、ついていくつもりか?」
「お前は行かないのか? アレン。ハイランド特務隊で、ドラゴン退治と行こうぜ。そりゃあ、半年前は街がアレだったから辞めたけどよ。なんかこう、毎日が物足りないんだよ、俺は。まあ、ブレイズの返事次第だけどな」
 ドルトンはビールから強い酒に切り替え、出てくる料理に片っぱしから手をつけていく。どんどん注文の声が大きくなり、隣のテーブルの騎士団員にも絡み始める。
 いつの間にか、狭い店内は騎士団の青い制服でいっぱいになっていた。カウンターに座っていたグレイシアも、姿を消している。
 アレンは懐中時計を取り出した。
「おっと、もういい時間だ」
「お、もう帰るのか?」
 ろれつが回らなくなっているドルトンは、椅子から立ち上がろうとしてよろめいた。後ろの席に座っていた男に、体を受け止められる。
「ここの支払いは俺に任せろ」
 ドルトンは、男に支えられながら、会計に向かう。ドルトンは、背中の男に顔を向ける。
「すまねぇな、クリス」
 ドルトンを支えていたのは、城で一緒だったクリスだった。ドルトンの介抱は慣れているようで、苦笑いをしながらも、しっかり支えてくれている。
 酔いが回っている割に、しっかり領収書を受け取ったドルトンは、クリスに支えられながら店の外に出た。僕とアレンも、その後に続き店を出る。
「ま、お前がどう返事するかは知らねぇが、俺は明日、城には行くからな」
 足元をふらつかせながら立っているドルトンは、「じゃあ」と手を上げて住宅街の中を歩き始めた。クリスはドルトンの肩を支えながら、一緒に薄暗い夜道に消えていく。
「クリスも大変だな、あいつ」
「まあ、そうだろうね」
 僕は、店の前の木馬を起動させた。ライトで足元を照らしながら、アレンとともに家の方へ足を向ける。
「ーーで、本当のところはどうなんだ。ブレイズ」
 アレンは隣を歩きながら口を開いた。
「多分、答えは出てるんだと思う。それがやるべきことだとも、分かってるんだけど、立ち上がる気力が湧かなくてさ。なんとなく逃げてるんだ」
 顔を上に向ける。建物の遥か上空に、星空が広がっている。
「逃げてたってしょうがないのも、分かってるんだけどね」
 星空の下には、まだまだ復興が追いついていない街。満足に道を照らす街灯も、住宅街には少なくなっている。
「周りがどう言おうと、俺はお前の気持ちが固まるのを待つよ」
 アレンの顔はやや紅潮していたが、まなざしは真剣だった。
「ありがとう。アレンは本当にいい奴だよ」
 住宅街を突っ切り、灯りが煌々としている中央大通りに出る。通りに沿って一区画も歩けば、ブックマン書房がある。
「ここまででいいよ。木馬で帰ったほうが早いだろう?」
「ああ、そうだね」
 アレンは背中を向ける。木馬に引っ掛けていたヘルメットをかぶり、鞄にエマから借りたタオルが入っているのを思い出した。
「そうだ、アレン。これ」
 アレンは足を止め、振り返る。アレンにタオルを差し出した。
「エマちゃんに返しといてよ」
「やだね。お前が自分で返せよ。じゃあな」
 アレンは踵を返し、大通りの人混みの中に消えていった。差し出したタオルを鞄にしまい、人混みを避けて車道まで木馬を押していく。丘の上へ向け、木馬を進ませた。

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【壊乱】#001

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執筆者プロフィール

長谷川雄治(はせがわ・ゆうじ)

物書きな作れるWebコンサルタント。
HTML/CSSのマークアップやWordPressのカスタマイズ案件を経験し、サービス構築やブランディング、サイト設計や戦略プランニング、各種原稿、書類作成まで担う。
独自色の強いコンテンツマーケティングの人という立ち位置も見出だしつつあり、不足しているものを補うべく、日々実践中。

2016.03.12

2018.05.02

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