【壊乱】#011

2016.03.12

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。
第11話。

この記事は 約 5 分で読めます。

,

 道なりに木馬を走らせていると、徐々に上り坂になってきた。丘の上に向かえば向かうほど、低く、真新しい建物が増えていく。
 建物同士の間隔が広がり始めたところで、大通りから中の通りに入る。曲がった角のところから山の方へ向けて、地面に敷かれた石畳は剥がれ、下の土がむき出しになっている。
 広い土地を覆う生垣には、上手に手入れが成されているものの、奇妙な継ぎ目が出来ている。手が届ききらない通りに咲く花は、すべて同じ方向を向いたまま倒れていた。
 花が指し示すほうへ木馬を向けると、山の傾斜を生かして立っている豪邸が見えてきた。どの家も、立派な塀や門、十分すぎるほどの庭を備えている。
 宝剣と同じ獅子のレリーフが刻まれていた門の前で、木馬を停めた。ヘルメットを脱いで木馬に引っ掛け、門の前に立つ。呼び鈴に手を伸ばしたところで、門の向こうから声がかかった。
「おや、ブレイズか」
「父さん」
 門の向こうには、父が立っていた。
「どうしたんだよ、こんな時間に」
「散歩するつもりだったんだよ」
「今から?」
「そう、今から」
 父は門を開けた。
「ま、散歩はいつでもできる。上がっていけよ」
 父の手招きに応じ、敷地に足を踏み入れた。暗さで良く分からないが、手入れの行き届いていた庭園は、半年経っても戻っていないようだ。広い庭なのに、木々の影も見えない。
「まるまる半年ぶり、か。元気にしてたか」
「うん、まあね。そっちは大変だったんじゃない?」
「そりゃあ、色々あったけどな。お前に比べたら、なんてことはなかったさ」
 常夜灯に照らされる父の顔は、以前よりもいくらか痩せて見えた。ピンとしていた背中も少し曲がり、顔のシワは、影ができるくらいに深くなっている。
「さ、どうぞ」
 父は家のドアを開ける。促されるまま中に入った。
 家の中には、ガレキやガラクタが隅の方に転がっていた。
「大分片付けはしたんだが、お手伝いさんも母さんも居なくなっちゃったからね」
 久しぶりに足を踏み入れた家の中は、少し片付きはしたものの、『あの日』のそれとあまり変わらないように見える。
 父に続いて、リビングに入った。ここも、ほとんどあの日のままだった。
 二階との天井をぶち抜き、屋根まで到達していた大きな穴は塞がれていたものの、庭に近い方からえぐられていた壁はどうしようもなかったようで、仮組らしい布と木材とで隙間を塞いでいた。
「まあ、座れよ。お茶ぐらい入れるからさ」
「あ、ああ」
 父はダイニングに引っ込む。
 暖炉の前でパーティーをやれたリビングも、今は四人掛けのテーブルと少しの調度品をおけばいっぱいになるぐらいの広さしか残っていない。
 適当な椅子に座って待っていると、父がポットとカップを持って戻って来た。
「茶菓子は切らしてて、何にもなかったよ」
「いいよ。長居はしないしさ」
「そうか」
 父はまだ色の薄い茶をカップに注ぎ、椅子に腰を下ろした。
「それで、用事はなんだ」
「大したものじゃないんだけどさ」
 腰の宝剣を外し、テーブルの上に置く。
「これを返そうと思って」
「これを?」
「うん。僕はもう、ハイランド家の人間じゃない。これを持つ資格はないから」
 宝剣を、父の前に差し出す。
「それに、明日から冒険に出るかもしれないんだ。まだ、かもだけど。これをもって街を出る訳にもいかないし、どっかで失くしてもいけないしさ」
「ーー理由は、それだけか?」
 父は、まっすぐ僕の目を見て言った。穏やかに笑みを浮かべていた顔は、そこにはなかった。
「本当に、理由はそれだけか?」
 父の目は、穏やかなままなのに鋭く突き刺さる。思わず視線をそらし、床に目をやる。『あの日』、母が倒れたらしい場所は、そこだけ色が変わっていた。血まみれの両手と苦痛に歪んだ母の顔、錆びた鉄のような匂いと肉を刺した感触を思い出す。鼓動と呼吸が早くなり、両手が震え出した。息苦しさが言葉と思考を詰まらせる。
 ーー本当は、本当は?
 思考を巡らせて言葉を探した。
「……怖いんだ。また、これで誰かを傷つけそうで」
「だから遠ざけて、自分自身も街から出ようというのか」
「そういうことでもなくて……」
 父はカップを口元に運び、一口飲んだ。カップを置いたその手で、宝剣の鞘を握る。
「持っていけ」
 宝剣を僕の方に差し出した。
「お前がどんな冒険に出るつもりなのかは知らんが、迷っているのなら、持っていけ」
 父は、宝剣を僕の前に置く。
「お前は、剣も魔法も、才能はなかった。女系のハイランド家だし、素質で言えば、グレイシアの方がこの剣を継ぐのにふさわしかっただろう。だが、母さんは、お前を選んだ。誰かのために必死に努力するお前を」
 父の目を見ると、さっきの鋭さは消えていた。穏やかな目で僕を見つめてくれている。
「お前はまた、誰かを助けるんだろう? だったら、持っていけ。迷った時、困った時、こいつがお前を助けてくれる」

この記事から読み始めた人へ

最初から読みたい人はこちらをご覧ください。

【壊乱】#001

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。 第1話。

執筆者プロフィール

長谷川雄治(はせがわ・ゆうじ)

物書きな作れるWebコンサルタント。
HTML/CSSのマークアップやWordPressのカスタマイズ案件を経験し、サービス構築やブランディング、サイト設計や戦略プランニング、各種原稿、書類作成まで担う。
独自色の強いコンテンツマーケティングの人という立ち位置も見出だしつつあり、不足しているものを補うべく、日々実践中。

2016.03.12

2018.05.02

Loading...
Facebook Messenger for Wordpress