【壊乱】#012

2016.03.12

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。
第12話。

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 父は僕の手を取り、宝剣を強引に握らせる。宝剣のずっしりとした重みが、僕の気持ちを落ち着かせていく。
「私も、母さんも、お前のことを恨んじゃいない。アレは、仕方がなかった」
 腕の中に抱いた血まみれの母は、何度もごめんね、と繰り返していた。宝剣に留めていた顔を上げ、父の方を見る。
「お前は若いんだ。いつまでも過去に縛られるな。顔を上げて、未来に生きろ」
 父は優しい笑みを浮かべた。
「ありがとう、父さん」
 その顔をじっと見ていると、込み上げてくるものが溢れそうになって下を向いた。深く息を吐いて熱いものを押し下げ、顔を上げる。
「じゃあ、そろそろ行くよ」
「そうか。じゃあ見送ろう」
 椅子から立ち上がり、リビングを出る。父は僕の後ろから見送りに来てくれる。
「玄関まででいいよ。外はもう、寒そうだし」
 後ろを振り返ると、父は右手を差し出した。
「また、いつでも来い」
「うん」
 父の手を握り返す。その力は弱々しかった。
 握手を解いてドアに手を伸ばすと、不意にドアは外へ開いた。ドアの向こうには、グレイシアが立っていた。グレイシアは僕に鋭い視線を投げかける。
 僕がグレイシアに道を開けると、グレイシアは無言で中に入ってきた。
「ただいま」
「おお、おかえり」
 やや萎縮して答えた父の前を横切り、グレイシアは颯爽と二階の自室に向かう。階段の途中で足を止め、こちらを振り返る。
「さっさと出て行きなさい、ブレイズ・フラム。あなたみたいな下賤の顔は二度と見たくない」
 グレイシアの目は、腰の宝剣に注がれる。
「私から、ハイランド家から全てを奪った疫病神め。今すぐ出て行かぬというのなら」
 グレイシアは腰の剣に手を置き、階段を降りてきた。
「この場で切り捨ててくれる」
 グレイシアは剣を抜き、抜刀の勢いで切りつけてきた。後ろに跳んで刃を躱す。前髪がわずかに切られ、宙を舞う。着地して後手でドアを開ける。グレイシアはそのまま間合いを詰め、剣をまっすぐ突き出してきた。宝剣を逆手で抜き、受け流しながら外へ出た。
 グレイシアの細身の刀身が、月明かりを受けて青く光る。悠然と、距離を詰めて来た足が、にわかに加速する。身を低くして突っ込んできた。身体の前に刀身を掲げているものの、向こうの柔らかな剣先は手首の僅かな動きで、それすらも避けて身体に迫ってくる。
 後ろに素早く、二度跳躍して間合いを大きく開ける。グレイシアは足を止め、剣を左手に持ち替える。目を閉じて、胸元に掲げた右手に赤い光が集まっていく。赤い光は火の球に姿を変え、ソフトボール大だった大きさはビー玉ぐらいに圧縮され、赤かった色は青白い色に変わっていく。
 宝剣を鞘に収め、背中を向け、門まで全力で走った。凄まじい高熱が後ろから迫ってくる。進路を変えてなんとか躱す。後ろからは、木が焼ける、焦げ臭い匂いが漂ってくる。
 顔だけを後ろに向けた。青白い火球は雨のように向かって来ている。右へ左へ、時に身を低くして火球をやり過ごし、門を押し開ける。火球に遅れてやってきた熱が右肩をかすめ、肩に暑さと痛みが広がる。肩の布地は、瞬時に焦げ臭い匂いと共に蒸発した。
 背中と肩で門を閉め、扉に背中をもたせる。右肩の傷は大したことはなさそうだったが、呼吸が上りきっていた。地面に尻をつき、冷えた空気を体の中に送り込む。浅い呼吸を繰り返し、深い呼吸に落ち着いてくると、汗が全身から噴き出してきた。
 鞄を探り、タオルを取り出して汗を拭う。耳を澄ましていると、剣を収めるような金属同士の擦れる音と、ドアの閉まる音が聞こえた。
 地面に手をつき、ゆっくり立ち上がって門の中を見る。再びドアが開き、グレイシアは胸に塩の入った小壺を抱えて、こちらに走ってくる。僕を睨みつけて、塩を掴む。
 慌てて木馬の元へ行き、起動させた。木馬を押しながら道へ走らせ、そのままの勢いで飛び乗る。グレイシアは門を出てきて、後ろで塩を撒いたが、僕には届かなかった。
 自宅へ向けて全速力で木馬を走らせ、僕と彼女の間に距離ができると、グレイシアはもう、追いかけてはこなかった。

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【壊乱】#001

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。 第1話。

執筆者プロフィール

長谷川雄治(はせがわ・ゆうじ)

物書きな作れるWebコンサルタント。
HTML/CSSのマークアップやWordPressのカスタマイズ案件を経験し、サービス構築やブランディング、サイト設計や戦略プランニング、各種原稿、書類作成まで担う。
独自色の強いコンテンツマーケティングの人という立ち位置も見出だしつつあり、不足しているものを補うべく、日々実践中。

2016.03.12

2018.05.02

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