【壊乱】#015

2016.03.12

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。
第15話。

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 参道の道の脇では、ドルトンの父が大工に指示を飛ばしていた。幌馬車亭の跡地の立て直しがこれから始まるようだ。基礎工事をしたばかりの、他の建造物にも、大工や元騎士団員の見習いが取り付き、身体を動かしていた。
 ドラゴンとその一派に襲われ、建物にも体にも、心にも傷を負っていた街は、少しずつ活気を取り戻しつつあるように見える。
 大通り沿いに出ると、街路樹の植樹も順調に進んでいるようだ。中には、騎士団の制服を着ている、現役らしい団員の姿もいくらか見えた。
 いつもより、人が多いように思う大通りを通り抜け、跳ね橋前の小屋に向かう。昨日のように名前を書き、プレートをもらった。小屋の中に入ると、昨日とはまた違う顔が青いプレートを胸につけ、跳ね橋が降りるのを待っていた。
 係員が呼びに来て、跳ね橋を渡る。城に入ると、職員たちはそれぞれの持ち場へ、青いプレートをつけた面々は、詰め所の方へ歩いていく。
「で、どこに行けばいいんだっけ……」
 大階段の前で立ち尽くす。辺りを見回しても、ネウロもフューリィもいない。他の職員にも、それらしき人物はいない。
「おお、ブレイズ。早いな」
 後ろからドルトンがやってきた。ドルトンは、カーペンター工務店と染め抜きの文字が入った手ぬぐいを頭に巻いていたが、それを取りながら近づいてくる。
 ドルトンはじっと僕の顔を見つめる。
「いい顔してるな。髪の毛はボサボサで頬は真っ赤だけどな」
「えっ?」
 頭に手をやる。確かに髪の毛は少し踊っているかもしれない。
「まだ早いし、俺はションベンしてくるわ」
「じゃあ、僕もトイレに」
 ドルトンにくっついて、トイレに入る。ドルトンはそのまま用を足しに便器の前に立ち、僕は洗面台の鏡の前で足を止めた。エマに打たれたところが確かに赤くなっている上に、髪の毛は広がったりうねったり、このまま人前に出るのは忍びない。適当に水をつけて、手ぐしで撫で付ける。まだまだ跳ねてはいるが、多少はマシだろう。
「陛下に会うかもしれんのに、その頭か。ま、お前らしいけどな」
 ドルトンは隣で手を洗い、前掛けで手を拭いた。
 トイレを出て、さっきいた大階段の前に向かうと、杖を持ったアレンが立っていた。アレンはこちらに気づき、視線を向ける。
「相変わらず、すごい頭だなブレイズ」
「あんまり言うなよ。そうだ、これ」
 歩きながら鞄を探り、雷の魔導石を取り出した。アレンに差し出した。
 アレンの杖には、小さな魔導石が色とりどりにはめ込まれていたが、一番上の大きな穴には何もなかった。
「これ、木馬のやつだろう。いいのか?」
「いいよ。しばらく乗ることもないしさ。それより」
 差し出したまま受け取られない魔導石を、杖の一番大きな穴にはめ込む。
「得意技があてにならない魔導石使いが一緒だと、みんなが困る」
「なんだと? 馬鹿にするなよ」
「まあまあ、アレン、ブレイズ。その辺にしとけって。お迎えも来たみたいだ」
 ドルトンの方を見ると、彼は親指で大階段の上を指した。そちらに顔を向けると、フューリィが階段を降りて来ていた。
「集合時間よりだいぶ早いが、もうみんな、揃ったようだな」
「ネウロは?」
「上で待っているよ。それじゃあ、行こうか」
 フューリィは、階段の途中で足を止め、踵を返した。その後に続いて、大階段を登っていく。大階段で三階まで上がると、真向かいに巨大な扉が姿を表す。扉の向こうは、玉座の間。
 その扉の両脇に衛兵が一人ずつ、それとは別に、男女が一人ずつ立っていた。
 男の方は、こちらに近づいてくる。
「やあ、ブレイズ。よく来てくれた」
 ドルトンは、奥の女をじっと見つめ、口を開いた。
「おい、ネウロ。隣は」
「ああ。そうだ、ドルトン。グレイシアだよ」
 ネウロとともに立っていた女は、こちらに冷たい目を向ける。確かに、グレイシアだった。ドルトンはやや戸惑いの色を浮かべて言う。
「なんであいつが」
「ドルトン、そいつは愚問だ。彼女の強さはお前も知っているだろう?」
「ああ、そりゃあ、まあ」
 ドルトンはまだ納得していないようだったが、口を閉じた。
「さあ、こんなところで長話をしてもしょうがない。入るぞ、ブレイズ」
「ああ。行こう」
 ネウロは衛兵に声をかけ、扉を開けさせる。ネウロは部屋の奥へ手招きし、それに従って玉座の間へ足を踏み入れた。
「陛下をお呼びする。跪いて待て」
 真っ赤な絨毯の上で、空の玉座の前まで進む。跪き、頭を垂れた。ネウロは係りの者と小声で話をすると、僕の隣へやってきて、跪いた。
 奥の扉が開き、ゆったりとした足音が近づいてくると、玉座の前で止まった。衣擦れの音が聞こえたかと思うと、歩幅の狭い足音は来た道を戻って行った。奥の扉が閉まる音が聞こえる。
「衛兵、お主も下がれ。儂が呼ぶまで入るなよ」
 広い部屋に、低い声がよく響く。奥の扉の前にいたらしい衛兵も、衣擦れの音と足音をさせて、扉の外に出て行った。再び、扉が閉まる音がする。
「もう良いぞ、皆の衆。面を上げて楽にされよ」
「陛下、なりませぬ。作法をお守りいただかねば、示しがつきませぬ」
「ネウロ、お前は本当につまらぬ男だな。作法や示しでは国が治らんとなんども言うておるのに、未だにわからんとは」
 ネウロは顔を上げる。
「しかし、」
「構わぬ。顔を上げて、楽になされよ」
 顔を伏せたまま後ろを振り返る。グレイシアは構わず顔を上げ、立ち上がる。ドルトンとアレンは互いに顔を見合わせ、そのままの格好だ。隣のネウロは顔を下に向け、唇を噛み締めている。
 僕は顔を上げ、国王の顔を見た。穏やかな中に、威厳を漂わせた風格、武力をも感じさせるしっかりした体躯に、豪奢な装いをまとっている。僕がゆっくりと立ち上がると、後ろのアレンとブレイズ、フューリィも立ち上がった。ネウロは一拍遅れて立ち上がる。
「おお、ブレイズ。久しいな。ミネルバの件は大変だったようだな。復興の支援に力を貸してくれたことも聞き及んでいる。この場を借りて、礼を言う」
 王は玉座から立ち上がり、頭を下げた。
「いいえ、そんな」
「ーー陛下、頭をお上げください。民に頭をさげるなど」
「あってはならぬ、か?」
 王は顔を上げ、ネウロを冷ややかな目で見た。
「つまらぬことに拘るのぉ。そんなことに拘るのなら、玉座には儂よりブレイズやグレイシアの方が血筋としては相応しいことになる。儂はたまたま、武力で国をまとめあげただけの、つなぎに過ぎん」
 王は僕の方に視線を向ける。
「徴兵から成り上がり、特務隊長まで務めたブレイズ。志願兵で入隊し、騎士団始まって以来最強と名高いグレイシア。いずれもネウロ、お前より王に相応しい。どうだ、ブレイズ。養子にでもならんか?」
「陛下っ」
 後ろでヒューリィが声を上げる。王はヒューリィの方を向き、手を上げて彼を制する。
「分かっておる、ヒューリィ。冗談だ」
 王は玉座に腰を下ろす。
「さて、本題に入ろう。西の山のドラゴン討伐。我が国にとっても、ハイランド家にとっても、因縁浅からぬ強敵を討ち果たす任務だ。受けてくれるか? ブレイズ」
「もちろんです。陛下。喜んで承ります」
「よく言うた」
 王は、微笑んだ。
「では、ブレイズを筆頭に、アレン・ブックマン、ドルトン・カーペンター、ヒューリィ・メイソン、グレイシア・ハイランド、ネウロ・アレキサンダーで討伐隊を組み、西の山に巣食うドラゴンを討ち取ってもらおう」
「陛下」
 ネウロは一歩前に出る。王はそちらを見ながら、口を開く。
「分かっておる。正規の軍籍はネウロとヒューリィのみだ。便宜上の隊長は、ネウロが担う。だが、実務上は小隊長の経験があるブレイズをリーダーとすること。よいな、ネウロ」
「……、はっ」
 ネウロは口の端を噛みながら、一歩下がった。
「ハイランド、いやフラム特別討伐隊は、これより国王直属の組織として働いてもらう。その分、物資は出来うる限りサポートしよう」

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【壊乱】#001

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。 第1話。

執筆者プロフィール

長谷川雄治(はせがわ・ゆうじ)

物書きな作れるWebコンサルタント。
HTML/CSSのマークアップやWordPressのカスタマイズ案件を経験し、サービス構築やブランディング、サイト設計や戦略プランニング、各種原稿、書類作成まで担う。
独自色の強いコンテンツマーケティングの人という立ち位置も見出だしつつあり、不足しているものを補うべく、日々実践中。

2016.03.12

2018.05.02

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