【壊乱】#016

2016.03.12

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。
第16話。

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 王は僕の方へ顔を向け、微笑んだ。
「これで、よいかな? ブレイズ」
「はい。ありがとうございます」
 僕は、深く頭を下げた。頭を上げようとすると、後ろから首根っこに太い腕が絡みついてきた。
「よっしゃあ。またみんなで、大暴れ出来るぜ」
「ちょっ、おい、ドルトン」
 ドルトンの腕の中で、僕とアレンが踠いていた。ドルトンの後ろから、ヒューリィの声がかかった。
「こら、ドルトン。陛下の御前だ」
「お、おお。そうだな。つい……」
 ドルトンは腕の力を緩めた。僕とアレンはその腕から逃れ、乱れた居住まいを正す。王は豪快に笑い声を上げる。
「まあ、よいよい。それと、諸君。サポートと申したな。食事と武具も提供しよう」
 ドルトンは、王の方へ顔を向ける。
「と、いいますと?」
 王は微笑みを浮かべて、手を鳴らした。奥の扉が開き、長テーブルと椅子が運び込まれる。人数分よりやや広いテーブルができたかと思うと、その上に続々と料理が置かれていく。
「腹が減っておれば良いのだがな」
 王は玉座を立ち、壇上から降りてくる。僕の肩に手を置き、みんなの方を見ながら口を開く。
「討伐隊結成の宴と参ろう」
 王は僕の背中を叩き、上座の椅子に腰掛けた。ドルトンは真っ先に目の前の椅子に座り、他の面々も手近な椅子に腰掛ける。王は僕に目配せし、僕も王の隣に腰掛けた。
 王はテーブルのそばに控える給仕係に目を向ける。
「皆にグラスを」
 給仕係は手分けをして、みんなの手元にシャンパンの注がれたグラスを置いていく。
「グラスは行き渡ったかな。では」
 王はグラスを持って立ち上がる。それに続き、全員が起立する。
「フラム特別討伐隊の武運長久を祈って。乾杯」
 王はグラスを高く掲げた。みんなもそれに続いてグラスを掲げ、グラスに口をつける。王は一息でグラスを空にした。グラスをテーブルに置く。
「さあ、召し上がれ」
 王は着座し、給仕係にシャンパンをもらう。後に続いて腰を下ろす。早速ドルトンが取り皿に肉を盛り付けていく。隣に座ったアレンはそれを制しながら、手近なサラダに手を伸ばす。
 向かいに座ったネウロはどこか不機嫌そうな顔をしていた。奥のグレイシアは表情ひとつ乱さず、ちんまりと座ったままシャンパンだけを傾ける。間に座ったフューリィは居心地が悪そうな顔で、パンを一口大にちぎり口に運んでいる。
「まあ、存分に食ってくれ」
 王は手に取った手羽先を口に運び、穏やかな笑みを僕に向ける。
「ああ、はい」
 何かを取ろうと顔を上げるものの、ドルトンの勢いに負けて手が出ない。手元のパンをちぎり、口に運ぶ。王は給仕係に合図して、肉やサラダ、シーフードを盛り付けた取り皿を、僕の手元に運ばせた。
「食べたいものがあったら、いつでも給仕係に言ってくれ。取り分けてくれる」
「ありがとうございます」
「これからお主には色んなものを背負わせてしまう。その分、しっかり食ってもらわんとな」
 王は新しい手羽先を口に運びながら、ウィンクする。
「ネウロから今回の話を聞いたときは、ついに後を託すだけの器になってきたかと思ったが、まだまだこやつはその器ではない。王の息子という立場に胡座を欠いたバカ息子だ。今は」
 ネウロは顔を上げ、表情を硬くしたまま取り皿に料理を取り分けている。王は、手羽先の骨を皿に置き、手に付いた油をナプキンで拭った。新しく肉料理に手をのばしかけたが、手元には野菜の入った取り皿が置かれる。王は少々不機嫌そうな顔を給仕係に向けるも、諦めたようにそれを口に運ぶ。
「だが、今回の辞令を成し遂げれば、それも少しはマシになるかもしれんと思ってな。今回の、便宜上の担当者にさせた訳だ。しばらくは目の上のたんこぶだろうが、面倒を見てやってくれ。フラム隊長」
「面倒を見るだなんて、そんな」
「お主には出来そうだがな。ミネルバが己の命も、家も託したお主ならな」
 王は、グレイシアの方へ顔を向ける。グレイシアは、相も変わらずシャンパンだけを傾けている。取り皿は綺麗なままだった。王はそちらを向いたまま、小さな声で話す。
「儂もグレイシアも、武力だけなら、お主より上だろう。魔法の才能がある分、あやつの方が強い。だが、所詮それだけだ」
 王の顔はこちらに向く。
「お主は、才能のなさを努力で埋めた。その分、自分の弱さを知っておる。心の弱さも十分知った。己の弱さと、弱さを埋めてくれる仲間の存在を知っているお主に、儂も国の将来を賭けようと思っておる」
 王は空になった皿を脇へ置き、給仕係から水を受け取り一気に飲み干した。
「諸君」
 王は全員に聞こえるように、低い声を響かせた。料理を取るために身を乗り出していたドルトンは顔を上げ、他の面々は食事の手を止め、王へ顔を向ける。
「国家と世界の平和のために、ブレイズを支えてやってくれ。では、わしは一足先に失礼する。最後まで楽しんで行ってくれ」
 王はナプキンで口と手を拭い、椅子から立ち上がった。入ってきたときと同じ奥の出入り口から玉座の間を出て行った。
 止まっていた食器の音が再び音を奏でる。ひときわ大きな音は、ドルトンの方から聞こえてくる。
 目の前に座っていたネウロは口をナプキンでぬぐい、水を飲み干すと椅子から立ち上がる。フューリィは食事の手を止め、ネウロの方へ顔を向けた。ネウロはフューリィの方へ顔を向けて言う。
「父上と話をしてくる。食事と食休みが済んだら、フューリィはみんなを武器庫に連れて行ってくれ。装備を整えておいてくれ」
「あ、ああ。了解した。お前は?」
「私も後で行く」
 ネウロは言いながら、歩き始めていた。フューリィは何かを言いたそうに椅子から腰を上げたが、その手にはまだ皿が載っていた。フューリィが皿の料理に目を取られている間に、ネウロは早々と出入り口に向かっていく。フューリィはそのまま椅子に腰を下ろすと、手元の料理を口に運んでいった。

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【壊乱】#001

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。 第1話。

執筆者プロフィール

長谷川雄治(はせがわ・ゆうじ)

物書きな作れるWebコンサルタント。
HTML/CSSのマークアップやWordPressのカスタマイズ案件を経験し、サービス構築やブランディング、サイト設計や戦略プランニング、各種原稿、書類作成まで担う。
独自色の強いコンテンツマーケティングの人という立ち位置も見出だしつつあり、不足しているものを補うべく、日々実践中。

2016.03.12

2018.05.02

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