【壊乱】#017

2016.03.12

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。
第17話。

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 グレイシアは椅子を引き、立ち上がった。そのまま、ドアの方へ歩いていく。ドルトンは食べながら声をかける。
「おい、グレイシア。どこに行くんだ?」
 グレイシアは足を止め、ドルトンを鋭い目つきで睨んだ。
「武器庫よ。先に行くわ」
 グレイシアは颯爽と部屋を出て行った。ドルトンはなおも手羽先を頬張りながら、僕の方を見る。
「グレイシアも一緒となると、大変だねぇ」
「まるで他人事だな、ドルトン。お前も気をつけないと、後ろから刺されるぞ」
 アレンは、ドルトンの方を見ながら言う。食事を終え、口を拭っている。
 ドルトンは更に肉を口に突っ込みながら、ヒューリィの方を見る。
「なあ、それにしても、なんであいつも一緒なんだ?」
 ヒューリィは、皿に残っていた最後の一口を口に押し込み、ドルトンの方へ視線を向ける。レタスや青菜を咀嚼して、口を開く。
「さあな。詳しいことは僕にも分からないよ。話を聞かれた陛下が、直接依頼されたらしい。それよりドルトン。お前、まだ食う気か?」
 ヒューリィは食器を置き、水を飲む。ドルトンは、周りを見回した。アレンも僕も、手は食器から離れている。
 ドルトンは、咀嚼の速度を徐々に落としていく。口を動かしながら、取り皿を手に、残っている料理を少しずつ取っていく。二皿分を手元に置いた。
「じゃあ、これだけ」
 ヒューリィは呆れたように肩をすくめると、給仕係に料理を下げるよう指示を出した。ドルトンの手元に置かれた皿と水が入ったグラス以外は、テキパキと取り払われていく。入れ替わりに、コーヒーや紅茶が運ばれてくる頃、ドルトンは小皿の料理を平らげて、ごちそうさま、と両手を合わせて皿を返した。
 コーヒーを飲みながら、ヒューリィは口を開く。
「ただまあ、目的はドラゴン討伐だ。グレイシアの力が心強いのは確かだ。彼女がいなければ、少なくとも、もう一個小隊は連れて行かねばならないだろう」
 ドルトンは丸くなった腹をなでながら、コーヒーを飲む。ヒューリィの方を見ながら言う。
「賑やかなのは嫌いじゃないが、そんなに大所帯は勘弁願いたいね。気兼ねもいらんし、多少の気まずさは我慢しようぜ、ブレイズ」
 ドルトンは、僕の方に目を向ける。
「僕は別に何の問題もないよ」
「本当にそうか? ブレイズ」
 ヒューリィは、僕の方へ顔を向ける。
「後継者問題を、あっちが諦めていなかったら、道中気が抜けないぞ。寝首をかかれるかもしれない」
 腰の宝剣に手を触れる。
「それでこいつを奪われて死ぬようなら、それでもいい。だけど、そんなことをする人じゃないさ」
「ま、それはそうだな。いけ好かない女だが、気持ちの真っ直ぐなところは俺も知ってる」
 ドルトンは僕の方へ顔を向け、少しいたずらっぽく微笑む。
「だが、真っ直ぐ過ぎるのが、玉に瑕ってな」
 僕が答えあぐねていると、アレンがドルトンの方を見て、言葉を継いだ。
「そういうお前の、バカ正直なところも問題だ。口を滑らせて斬られるなよ」
「そいつもそうだ。気をつけるぜ」
 ドルトンは高らかに笑った。
「さ、そろそろ行こう」
 ヒューリィは、椅子から腰を上げた。僕も、アレンも立ち上がる。先に歩き出したヒューリィの後を追って、扉の方に向かう。ドルトンは一拍遅れてコーヒーを飲み切り、椅子から立ち上がった。小走りに後ろをついてくる。
 玉座の間を出て、大階段を一つ降りる。二階の廊下を進み、武器庫へ向かう。先頭を歩きながら、ヒューリィが言う。
「そうそう、グレイシアが付いて来る理由が、もう一つある」
「ほお、なんだそれは」
 一歩後ろにいたドルトンが、前に出てくる。
「結婚相手を探すこと」
「結婚? あのグレイシアが色恋かよ」
 ドルトンは歩きながら笑う。ヒューリィはドルトンの顔を不思議そうに見る。
「器量で言えば、そんなにおかしい話でもないだろう?」
 ドルトンは息を整えて、口を開く。
「確かに器量はいいが、性格と腕っ節が問題だろう」
 ヒューリィは、ドルトンの方を見る。
「そう、問題はそこだ。腕っ節は外へ出れば、隠し通せる。彼女の気位の高さと釣り合う男がいれば、後は知らぬが仏ってね。ま、この話はあくまでも憶測だ」
 ヒューリィは扉の案内を見て、足を止める。こちらを振り返り、口元に指を押し当てた。
「この話はここまでだ。さ、武器庫に着いたぞ」
 ヒューリィは、扉の横に立つ衛兵に、頑丈そうな扉を開けさせる。移動式の大砲や馬具、城壁や城門を破壊するための機動兵器やその弾薬、槍や曲刀、巨大な剣、鉄仮面や鎖帷子、両手持ちの大型の盾なんかも並んでいる。
 その部屋の奥で、グレイシアは右肩に肩当のついた薄手の胸当てを着け、細身の剣を品定めしていた。腰には、昨日の剣を帯びている。
「遅かったな、ブレイズ」
 細身の剣ばかりの入った籠に、今し方抜き出したばかりの剣を戻す。
「いや、まあ」
「どうせ、どうでもいい話に華を咲かせていたのだろう。隊長がそういうことでは困る」
 グレイシアは、別の剣に手を伸ばした。籠から抜き出し、目の高さに掲げる。目の前で横に持ち、鞘から刀身を少し引き出す。小さな窓から差し込む光が刀身に跳ね返る。
「それで、ドルトン・カーペンター」
 グレイシアは、剣を抜き切り、切っ先をドルトンへ向ける。
「私の性格がどうだって?」
「え、いや。何も」
 グレイシアは、剣を向けたまま一歩ずつ近付いてくる。
「陛下直属の組織に、嘘をつく奴がおるとはな」
 グレイシアは身を屈め、大きく踏み込む。
「聞こえぬと思ったかっ!」
 グレイシアは剣をまっすぐ突き出した。ドルトンは、自分の前に立っていた僕、アレン、ヒューリィを押しのけながら、横に飛ぶ。グレイシアは体をひねり、ドルトンの動いた先へ剣を薙いだ。
「こいつ、地獄耳かよっ」
 ドルトンは、後ろに着いた手で周囲を探り、手に触れた手斧を握って目の前に掲げた。斧と剣がぶつかる。
 グレイシアは動きを止め、構えを解いた。
「やや重いな。おまけに硬い」
 グレイシアは剣を鞘に収める。ドルトンは、それを見ながらゆっくりと立ち上がった。膝に手を置き、肩の力を抜いた。
 グレイシアは剣を適当なカゴに仕舞う。ドルトンは顔を上げ、グレイシアの方へ一歩踏み込んだ。ドルトンは、グレイシアの名前を呼ぶ。
「おい、グレイシアーー」
 グレイシアの手が腰の剣にかかる。僕が一歩踏み出す前に、フューリィがドルトンの襟に指を引っ掛けた。ドルトンの体は、グレイシアの繰り出した剣に触れないように動きを止めた。
 グレイシアはドルトンの眼前に据えた剣を引き、構えを解く。刀身を目の前に掲げてじっくりと眺める。
「やはり、これが一番だな。ヒューリィ、道中、これをいつでも調達できるようにしておいてくれ」
「了解した。伝えておこう」
 グレイシアは剣を納めた。ヒューリィは、ドルトンが身体を起こすのを待ち、襟から指を外した。
「僕の装備もこのままでいいから、今の件を伝えてくるよ。みんなはしっかり選んでいてくれ」
 ヒューリィは、グレイシアに剣を預かり、部屋を出て行った。

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【壊乱】#001

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。 第1話。

執筆者プロフィール

長谷川雄治(はせがわ・ゆうじ)

物書きな作れるWebコンサルタント。
HTML/CSSのマークアップやWordPressのカスタマイズ案件を経験し、サービス構築やブランディング、サイト設計や戦略プランニング、各種原稿、書類作成まで担う。
独自色の強いコンテンツマーケティングの人という立ち位置も見出だしつつあり、不足しているものを補うべく、日々実践中。

2016.03.12

2018.05.02

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