【壊乱】#021 【壊乱】#021

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「そろそろ出発するが、準備はいいかな?」
 ネウロは周りの顔を見ながら言う。
「ああ、いつでもいいぜ」
 ドルトンが答えた。
「セバスチャン、馬車を出してくれ」
 ネウロがセバスチャンに告げると、彼は四頭の馬に触れ、馬車を城門へ向けて動かし始める。先ほどまで荷台のそばにいた兵士が、いつの間にか城の方から歩いてきた。後ろには小さな馬車とその御者も一緒だった。ネウロは御者を見上げて口を開く。
「第二機甲隊のランスロット隊長ではないか」
 ランスロットの胸には、鈍い光を放つ勲章がぶら下がっていた。
「愛しのグレイシア嬢のお見送りとあらば、お安い御用だ」
 ランスロットは、グレイシアにウィンクした。グレイシアは一瞥をくれたものの、すぐにそっぽを向く。ランスロットは苦笑いを浮かべ、咳払いを一つして、顔を引き締めた。
「さ、乗った乗った。街の外まで送りましょう」
 ランスロットが言い終える前に、ネウロは馬車に乗り込んだ。ヒューリィもそれに続いて馬車に乗る。僕らも後に続いた。全員乗り終えると、先に動き出した荷馬車の後を追いかけて、城門へ進んで行く。
 窓の外を眺めていると、馬車用の大きな跳ね橋が、ゆっくりと降りていくのが見える。
「このまま、馬車に揺られて行けば楽なんだがな」
 ドルトンは、窓の外を見ながら呟く。
「街の守りを忘れてもいいんなら、第二機甲隊を連れて行けばいい」
 ドルトンの向かいに座ったネウロは、彼の方をまっすぐ見ながら言う。跳ね橋が降り、四頭立ての荷馬車を先頭に城の外へ出て行く。城門前の大通りをまっすぐ街の外へ向かう。
 道の両脇には、普段の生活を営む市民と、復興に当たる職人や職員が何人も見えた。ウッドブック書房の前では、クリスが街行く人にチラシを配っていた。
「楽して守れるものなんて一つもないことぐらい、俺も知ってるよ」
 ドルトンは窓の外を向いて言う。
「俺たちが帰ってくる頃には、街も戻ってる。そう信じて頑張ろうぜ、隊長」
 ドルトンは、斜向かいに座った僕の胸を軽く小突いた。
「ああ」
 僕は頷いた。僕の頷きを待っていたかのように、馬車が揺れる。馬車はいつの間にか、街の外へ通じるゲートを踏み越えていた。
 窓の向こうには、レンガが積み上げられたゲートが見えている。もう一度馬車が揺れると、二重になった外壁と遠くまで見える草原が広がっていた。
 馬車が止まり、ランスロットが馬車のドアを開けた。
「さ、どうぞ」
 ランスロットは、一番手前に座っていたグレイシアに手を差し伸べる。グレイシアはさっと立ち上がり、差し出された手を無視して一人で降りた。
 ランスロットは肩を落として、ドアの前を開ける。ネウロ、ヒューリィが先に降り、僕とアレン、ドルトンが順番に馬車を降りる。
 ランスロットは馬車のドアを閉め、御者台に上る。ちょっぴり丸まった背中に、僕は声をかけた。
「ありがとう、助かったよ」
 ランスロットは座席に腰掛け、顔をこちらに向けた。
「いやいや、こちらこそ。姉君を頼んだぞ、ブレイズ」
 グレイシアが一瞬こちらを見た。それに気がついたランスロットは嬉しそうに微笑む。
「では、ランスロット隊長。街と陛下のことは頼んだぞ」
 ネウロがランスロットを見上げる。
「ああ、もちろん。じゃあ、この辺で」
 ランスロットは馬車を方向転換させ、街の方へ戻っていく。

長谷川 雄治

長谷川 雄治はせがわ ゆうじ

2013年から、仮面ライターを掲げて活動中。
物書き&Web制作、コンサルティングが本業だと思い込んでいる、ただの変な人。