【壊乱】#023

2016.03.12

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。
第23話。

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 ドルトンの近くまで行くと、彼は前を向いて歩き出した。見通しの良い一本道をひたすら真っ直ぐ歩いていく。
「な〜んにもねぇな」
 ドルトンは頭の後ろで手を組みながら歩く。
「右も左も、なぁ〜んもない」
 ドルトンは、顔を右や左に向ける。それに釣られて、左右を見回す。遠くまで広がる緑の絨毯と、それを貫く茶色の道が広がるだけ。上を見上げてみても、快晴でも曇天でもない、青い空と白い雲。頬をなでる風も、草の匂いを運んでくるだけ。
 時折、野ウサギや小鳥は見かけるものの、他に動くものといえば、後ろをついてくる仲間ぐらい。
「もっとこう、ガンガン敵を屠っていくもんだと思ってたけどな。さすがに平和過ぎるぜ」
「平和なら、いいじゃないか」
「それもそうなんだが、なんて言うか」
 ドルトンは少し眉を寄せる。頭の後ろで組んでいた手を解き、胸の前で腕を組んだ。あまり見たことのないドルトンの顔を見ながら歩いていると、不意にドルトンが表情を和らげた。
 胸の前で組んでいた腕を解き、二、三歩前に出て足を止めた。
「どうした?」
 ドルトンは、「う〜ん」と唸り声を上げながら、手を目の前にかざした。じっと行く先を凝視したまま、口を開く。
「ブレイズ、まだ走れるか?」
「ああ、それは全然大丈夫だけど」
「じゃあ、先に行く。付いて来い」
 ドルトンは前傾姿勢をとって、駆け出した。一気にスピードを上げて、真っ直ぐ走っていく。その背中を追いかけると、道路に倒れている人と、その側に立つ子供、そこへ近づいていく子熊のような黒い獣が二、三体見えて来る。
 ドルトンは更に速度を上げて、子熊、ブラックベアーに向けて体をぶつける。魔獣と人の間に力尽くで割り込んで行く。
「ブレイズっ」
「ああ、分かってる」
 僕はドルトンの後ろにいる子供と、倒れている男に手を伸ばす。ドルトンが抑えきれなかったブラックベアーが、爪を振りかぶって飛びかかって来る。子供を脇に抱え、男に覆いかぶさり、ブラックベアーに背中を向けた。
「ブレイズっ」
 ドルトンがこちらを振り返る顔がチラリと見えた。背中を、冷たい風と雷鳴が通り過ぎていく。痛みを感じる予定だった背中には、散り散りになったブラックベアーの肉片と体液が降りかかった。
 顔を上げると、杖を構えたアレンと剣の柄に手を置いたグレイシアとが見えた。後ろでは唸り声を上げたドルトンが、生き残ったブラックベアーに右拳を叩きつけていた。
 ドルトンは肩を上下させながら、こちらに顔を向けた。爪で出来たらしい切り傷を頬に負っている。
「大丈夫か、ブレイズ」
「ああ、大丈夫だよ。ドルトン、皆ーー」
 身体を起こしかけると、下から強い力がかかってひっくり返される。首に腕が巻かれ、顔の横にはナイフの刃が当てられた。
「おい、お前っ」
 ドルトンは魔獣に向けていた身体をこちらに向けて、一歩前に出た。
「止まれ。止まらなければ、こいつの命はない」
 後ろから押さえつけてくる男は、先ほどまで倒れていたとは思えない強い力で、僕の動きを抑制する。ドルトンは足を止めた。
「金目のものを置いていけ。命まで奪うつもりはない」
「お前なぁ、子連れでそんなことするなよ」
 ドルトンは、ブラックベアーの体液を顔に浴びた男の子に目を向ける。
「食って行くためだ。子連れも何も、関係ない」
「そりゃそうだけどよ。なぁ、なんとか言ってやれよアレン」
 ドルトンは、僕の後ろに視線を向けた。
「よその経済とか教育に口を突っ込めるほど、俺も人が出来ちゃいないさ。一つ言えるのは、早くここから離れた方がいいってことぐらいかな」
「なに?」
 後ろの男が体の向きを僅かに変える。アレンの顔が視界に入る。アレンはドルトンの向こうに転がっているブラックベアーを顎で指す。
「子を奪われた親がやることは、人も魔獣も同じってことさ。特に、ブラックベアーは鼻が効く」
 アレンは自分の鼻の頭を人差し指で軽く叩いた。

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【壊乱】#001

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。 第1話。

執筆者プロフィール

長谷川雄治(はせがわ・ゆうじ)

物書きな作れるWebコンサルタント。
HTML/CSSのマークアップやWordPressのカスタマイズ案件を経験し、サービス構築やブランディング、サイト設計や戦略プランニング、各種原稿、書類作成まで担う。
独自色の強いコンテンツマーケティングの人という立ち位置も見出だしつつあり、不足しているものを補うべく、日々実践中。

2016.03.12

2018.05.02

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