【壊乱】#024

2016.03.12

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。
第24話。

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「一刻も早く、ここを離れた方がいい」
「アレンの言う通りだ」
 ドルトンは前に出て、男の子を抱きかかえた。
「おい、動くなと言っただろう」
 ナイフが強く押し当てられる。ドルトンは若干怒気を含んだ声で言う。
「分かんねぇ奴だな。金の心配より、テメェの命を心配しろよ。ブレイズも、いつまでやってんだ。早く行くぞ」
「あ、ああ」
 押さえつけていた男の腕を、解いた。男の胸の中から逃れて前に出ようとすると、後ろから伸びてきたその腕が襟首をつかんだ。
「おい、お前」
 後ろに引っ張られる勢いで振り返ると、男はナイフを振りかぶっていた。
「御免っ」
 ナイフを払って屈み込み、鳩尾にパンチを叩き込んだ。男の全身がダラリとし、全体重が僕の肩にかかる。
「行くぞ、ブレイズ」
 ドルトンは男の子を抱えて、馬車の方へ歩いていく。アレン、グレイシアは彼らの前を歩いている。
 男の身体を、やっとの思いで背中に回した。足元に落ちたナイフを、念のため拾い上げる。
 男を背負って立ち上がる。顔を上げると、馬車の側で男の子の顔を拭っているのが見えた。僕の身体にも、ブラックベアーの臭いが染み付いているんだろう。
 背中の男が落ちないように気をつけながら、馬車まで走った。
 すっかり綺麗になった男の子の頭を乱暴に撫で回しているドルトンが、こちらに顔を向けた。
「おお、ブレイズ」
「で、こんな荷物を抱えてこれからどうするんだ?」
 ドルトンの後ろからネウロが声をかけてきた。
「とりあえず、降ろすの手伝ってもらえるかな。重くって」
 馬車の側で足を止めると、背負っていた男の重みが一気にかかる。ドルトンの手伝いを受けながら、男を背中から下ろした。男はぐったりしたまま、地面の座らされる。
「魔獣も利用した物盗りだろう。わざわざ危険を冒して助けることもない」
「だからって」
「我々全員も危険に晒そうっていうのか?」
「別にいいじゃねぇか。多少の危険ぐらい」
 ドルトンは、男の頬を軽く叩きながら言う。
「どうせ俺たちは、鈍った感をどうにかしなきゃならないんだ。このまま進んでたって、なぁ〜んにも起こらないんじゃ、そっちの方が後々困るんだろう?」
 ドルトンは男の体を優しく揺さぶりながら、こちらに顔を向ける。
「こいつを連れて行けば、ブラックベアーとは戦える。ブラックベアーの成獣も倒せないのに、ドラゴンなんて夢のまた夢。いや、辿り着くのも無理だろう」
 ドルトンに揺さぶられていた男は、小さく呻くと、ゆっくり目を開いた。ドルトンは男の顔を見る。
「あんたは今から囮だ」
「はぁ? 何を」
「俺たちの訓練のために、ブラックベアーを誘き寄せてもらう。俺たちの都合で危ない目に合わせるんだ、手当も報酬も支払う。それで、どうだ?」
「一体なんの話をしている? ナイフはどこだ」
 男は座ったまま辺りを手で探り、ナイフを探す。ドルトンは僕に顔を向けた。僕はドルトンにナイフを差し出す。ドルトンに差し出されたナイフはそのまま、男に差し出された。男はそれを受け取ると、手を振り払って立ち上がる。
「俺から、離れろぉ」
 男はナイフを力一杯に振り回す。ドルトンはナイフに当たらないよう、後ろに下がった。
「そんなにイヤなら、勝手にしろよ」
 ドルトンは、後ろに立っていた男の子を男の方へ差し出した。
「その子とどこでも行けばいい。その代わり、死んだって知らねぇぞ。ネウロ、金も幾らか渡してやれ」
 ネウロは渋い顔をしたが、ヒューリィに耳打ちをして、馬車の備蓄から小さな袋を持って来させた。ドルトンはその袋を掴むと、男の前に放り投げた。袋は、ジャラジャラと音を立てながら重たそうに地面に落ちた。

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【壊乱】#001

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。 第1話。

執筆者プロフィール

長谷川雄治(はせがわ・ゆうじ)

物書きな作れるWebコンサルタント。
HTML/CSSのマークアップやWordPressのカスタマイズ案件を経験し、サービス構築やブランディング、サイト設計や戦略プランニング、各種原稿、書類作成まで担う。
独自色の強いコンテンツマーケティングの人という立ち位置も見出だしつつあり、不足しているものを補うべく、日々実践中。

2016.03.12

2018.05.02

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