【壊乱】#025

2016.03.12

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。
第25話。

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 男はナイフを捨てて、袋に手を伸ばした。ドルトンは目前で袋を拾い上げた。
「やっぱりやめた。あんたはどうでもいいが、その子が死ぬのはな」
「貴様っ」
「まあまあ、そう怒るなよ。俺たちに協力してくれれば、命も報酬も保証する。一緒についてくるだけで、貰える金は二倍にしてやる。悪い話じゃないだろう」
 ドルトンは指を二本立てて、男の顔の前にかざした。
「おい、ドルトン。何を勝手に」
 ヒューリィは、ドルトンに詰め寄る。ドルトンは振り返った。
「目の前の親子も助けられないのに、ドラゴンなんて倒せるかよ」
「世界の前に、親子の存在など取るに足りん」
「ヒューリィ、お前っ」
 ドルトンはゆっくりと拳を握る。ヒューリィの目は、冷ややかにドルトンの顔に注がれている。ドルトンは右拳を顔の横に引き上げた。
「ちょっと、待ってください」
 ドルトンは殴りかかろうとしていた拳を止めて、振り返った。ドルトンの後ろにいた男は、やや穏やかな表情を前に向けた。
「世界とか、ドラゴンとか、あんたらが何の話をしているかはよく分からない。だけど、ドルトンさんだっけ。あんたの気持ちはよく分かった。あんたの提案、受けさせてもらうよ」
「えーっと……」
「ティモシー。ティモシー・ヒューストンだ」
 ティモシーは、ドルトンに右手を差し出した。ドルトンはその手を握る。左手にもっていた袋をティモシーに差し出す。
「じゃあ、約束の報酬だ。もう一つも用意させる」
「いや、報酬はいらない」
 ティモシーは、ドルトンの差し出した袋を押し返した。側に立っていた男の子を招き寄せ、その頭を撫でる。
「私とこの子、ウィリアムの安全が保証されるなら、それだけでいい」
「気持ちは立派だけど、お金もいるでしょ。これだけは受け取ってよ」
 ドルトンは、握っていた袋を強引にティモシーに握らせた。ティモシーは、「ありがとうございます」と何度も繰り返しながら、深々と頭を下げた。
「で、落ち着いた? 先を急がないと日が暮れる前に、ウッドフィールドに着けないし。行くよ」
 僕は、馬車の前に立ち、ルートセブンを歩き始めた。馬車がゆっくりと後ろをついてくる。後ろを振り返ると、馬車を囲むように、みんなが追いかけてくる。
 ティモシーと話していたドルトンが、スピードを上げて僕の方へ駆けてきた。
「なあ、いい知らせが一つある」
「なんだ、それ」
「ティモシーさん、ウッドフィールドで民宿を経営してたらしい。今は営業してないけど、土地も建物も権利は捨ててないから、泊めてもらえるかもしれない」
「え? なのに、あんな詐欺みたいなことしてた訳?」
「ここまで歩いてきて、分かるだろう。交通量の少なさが」
 アレキサンドリアを出てまだそれほど歩いてはいないが、国家間を結ぶ道にしては、往来は確かに少ないかもしれない。道の先を見ても、馬車の影も歩く人の影もあまり見当たらない。
「元々交通量の多い道じゃなかったらしいが、半年前からグッと人通りが減ったみたいで、宿場町のウッドフィールドはどこの店も苦しいらしい」
「それも、ドラゴンに原因があるのだとすると、他人事とは言えない、か」
「まぁ、そればっかりが原因とは言えないけどな。フォレスタとの行き来が難しくなれば、ダメージはゼロじゃないわな」
 僕があの時、きちんとドラゴンを倒していれば、ティモシーさんのような人たちも、アレキサンドリアの惨状も産まなくてよかったのか。
 ドルトンは僕の顔を覗き込み、勢いよく背中を叩いた。
「お前のせいでもないよ。今から、全部取り返そうぜ」
 ドルトンは満面の笑顔を浮かべた。
「時々、ドルトンが羨ましくなるよ」
「そうか? バカで単純な、前に進むことしかできない、脳みそ筋肉ってやつだよ」
「ドルトン、お前……」
 ドルトンの顔をじっと見ていると、笑顔が消えて真顔に変わる。
「俺だって自分のことぐらい分かってるさ。難しいことはお前らに任せて、考える時間を稼ぐのが俺の仕事よ」
 ドルトンは顔を前に向けて、僕の二、三歩前を歩く。

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【壊乱】#001

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。 第1話。

執筆者プロフィール

長谷川雄治(はせがわ・ゆうじ)

物書きな作れるWebコンサルタント。
HTML/CSSのマークアップやWordPressのカスタマイズ案件を経験し、サービス構築やブランディング、サイト設計や戦略プランニング、各種原稿、書類作成まで担う。
独自色の強いコンテンツマーケティングの人という立ち位置も見出だしつつあり、不足しているものを補うべく、日々実践中。

2016.03.12

2018.05.02

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