【壊乱】#027

2016.03.12

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。
第27話。

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 馬車の進行方向に顔を向ける。ドルトンが右手の盾を構えて、道を塞ぐ魔物の群れに向かって走り出した。馬車は速度をわずかに上げる。
「セバスチャンさん、速度を抑えて」
「やってますよ、必死に」
 セバスチャンは必死の形相で手綱を握る。魔物に反応した四頭の馬を抑えるには力が足りない。馬車はバランスを保ちながら速度を更に上げる。馬車の前で必死に走るドルトンの背中を追い抜きそうな勢いだ。
「アレン、ヒューリィ。グレイシアっ」
 後ろを振り返る。ヒューリィは、荷馬車の屋根に飛び乗り、弓を構えていた。僕の横を走り抜けたグレイシアは、ドルトンを追い抜いて馬車の前に出る。
 走りながら、魔導石の弾丸でカイトを撃ち抜いたアレンが、僕の方を見た。
「俺は?」
「荷馬車の上で本気の詠唱を頼む」
「その間の守りは?」
「僕らがなんとかする。ヒューリィっ!」
 荷馬車の上で光の矢を的確に放つヒューリィが、顔をこちらに向けた。
「アレン、走りながら行けるか?」
 アレンは銃をポーチにしまいながら、渋い顔を上げる。
「ったく、簡単に言いやがって」
 アレンは荷馬車の上に視線を上げる。
「頼むぞ、ヒューリィ。拾ってくれ」
「了解」
 ヒューリィは、構えを解いて弓から手を離した。アレンは体を前のめりにして速度を上げる。そこへ、低く飛んできたカイトが真っ直ぐ突っ込んでくる。剣を抜きかけるが、重い。僕とアレンの間を黒い影が横切った。後ろから飛び込んできたネウロが、カイトを真っ二つに切り裂く。
 ネウロは、頬にカイトの体液をつけながら振り返る。
「落ち着け、ブレイズ。もっと周りを見ろ」
 ネウロはそう言いながら、両手をアレンの前で両手を組んで立ち止まった。
「行くぞ、アレン、ヒューリィっ」
 アレンは走り出し、ネウロの手に勢い良く足を乗せた。ネウロは勢いを殺さずに、アレンを荷馬車の屋根へ打ち出した。アレンは十分な跳躍を得て、ヒューリィの隣に着地する。ネウロがヒューリィに視線を送ると、ヒューリィは頷き返した。ヒューリィはアレンと共に屋根の中央へ姿を消す。
「力むな、ブレイズ」
 ネウロは僕の方を叩いて、口角を上げて微笑む。
「皆の力を信じろ。そう簡単には、死なん。お前は、あの親子と自分の身を守ることに専念しろ」
「そう、だな。了解」
 ネウロは僕の返事を待つことなく、馬車の守りに駆け出した。馬車を囲っていた魔物達は、様子伺いを止めて距離を詰めている。遠巻きにこちらを見ていた、ストライプ・ジャッカルの群れが、背中を丸めて駆け出した。
 足を止め、ゆっくりと長く息を吐き切る。焦りのイメージが呼気とともに体の外へ出て行く。クリアになった頭で顔を前に向ける。眼前には、狙いを馬車から僕に切り替えたジャッカルが二匹、左右から飛びかかって来ていた。
 上体を前に傾け、刀身の重さを使って剣を抜く。剣の重さに勢いを乗せて、全身を使って切っ先で円を描く。左右の爪を受け流すと同時に、追撃の刃が二匹のジャッカルを一度に切り裂いた。
 回転の終わりをめがけて、切り裂いた二体の奥からジャッカルが一匹、牙を剥いて突っ込んでくる。剣を重りに、止まりかかった回転を加速させ、回し蹴りをジャッカルのこめかみに叩き込む。
 頭に一撃を喰らったジャッカルは、そのまま地面に倒れこんだ。口からヨダレを垂らしながら、即座に立ち上がって飛びかかってくる。こちらもすかさず前に出た。目の前に迫る牙と腐臭のような臭いのする息を、体軸を半歩ずらしてかわすと、すれ違いざまの首筋へ刃を振り下ろした。重みに任せたその一撃はどこにも引っかかることなく、野犬の首を切断してくれる。
 馬車の方へ顔を向ける。アレンの支援魔法か、セバスチャンのテクニックかは分からないが、若干速度を落とし気味に走っている。馬車の周囲を取り囲んでいた魔物の半分は、そこから少し離れてしまった僕の方へ向かってきていた。
 後ろの方から、ジャッカルの足音が近付いてくる。振り返ると、ジャッカルの体はすでに宙空にあった。足をそちらに向けて踏み込む。肩越しに剣を振りかぶり、タイミングを合わせて袈裟に切りつけた。二つに分かれた肉の塊が足元に落ちる。屍体を確認して空を見ると、今度はカイトが七匹、横一列に並んでいた。上空から一斉に、僕を目がけて急降下を仕掛けてくる。
 剣を正眼に構えようと両足を踏ん張った。ジャッカルの屍体を踏み、バランスがにわかに崩れる。慌てて立て直すが、カイトの突っ込んでくる速度が速い。
「下がれ、ブレイズっ」
 掛け声に合わせて、一歩後ずさる。身体の前を刃のついた円盤が通り過ぎ、急降下していたカイト七匹を、一気に薙いでいく。伸びきった鎖を操って、地上の闇ラビも数匹、そのまま一掃する。
「前衛はどうした、ドルトン」
 鎖を引き寄せ、円盤を右手に持ったドルトンは、今にも飛び掛かりそうな魔物に目を光らせながら、僕の背中側に立った。
「なに、お前の姉貴に邪魔だって言われてね」
「へえー」
「じゃあ、せめて伝令ぐらいでもってね」
「伝令ねぇ」
 額に赤い石を埋め込まれた闇ラビが、目の前に飛びかかってきた。思いっきり殴りつけると、埋め込まれていた赤い石、火の魔導石を残して霧散する。魔導石を拾い上げ、腰のポーチに突っ込む。
「アレンが久々に、あれをやるんだとよ」
「あれを?」
 ドルトンの方へ顔を向ける。ドルトンは、ジャッカルを一匹円盤で殴り飛ばしていた。
「おお、あれだ」
 ドルトンは目で、馬車の上空を指した。そちらへ目をやると、そこだけ黒々とした雲が形成されつつあった。
「キリがないから、いい加減、一掃しようってことらしい」
「そいつはいいね。じゃあ、あそこまで行こうか。ドルトン」
「おお」
 ドルトンは先に馬車へ向かって走り出した。進路を塞ぐ魔物達を、どんどん円盤で屠っていく。僕は剣を鞘に収め、さっきの魔導石を胸元で握って走った。
 馬車の前で軽やかに剣舞を舞うグレイシア。馬車に近づく地上の魔物を的確に仕留めていくネウロ。荷馬車の上で上空の敵、地上の敵を問わずに射止めていくヒューリィ。ヒューリィの前で詠唱を続けるアレンがはっきりと見えてくる。
 時折飛びかかって来る闇ラビを、素手で払いのけながら、火の魔導石に意識を集中する。徐々に右手へ熱が集まってくる。熱は手の中で火の球に形を変えた。
 走りながら後ろを振り返った。僕を追いかけてくる地上の魔物、低空を飛んでくるカイトが列を成してくれている。足を止め、思いっきり火球を放り投げた。火球の通り道にいた魔物は体の半分を火で焼きながらも、追いかけてくる。
「ブレイズって名前の割に、火の魔法は下手なままなんだな」
 円盤を引き戻し、攻撃の手を止めていたドルトンは、僕の顔を見る。
「しょうがないだろう。才能は全部、あっちが持ってったんだからさ」
 僕は顎でグレイシアを指した。
「ま、そういうことにしといてやるよ。それより、急ぐぞ」
 ドルトンは斜め上を見上げて、駆け足の速度を上げた。上空の黒雲は、雷鳴を轟かせていた。
「確かに、のんびりしてられないな」
 ドルトンの後を追いかけて、馬車の側に向かう。
 荷馬車の上で詠唱を続けていたアレンが、閉じていた目を開けて、周囲を見回した。
「グレイシア、ネウロ。ドルトンとブレイズも。馬車の側へ」
 アレンの号令に、全員が攻撃を放棄して馬車の周囲に身を寄せる。
「行くぞ。サンダー・エクスプロージョンっ」
 アレンは、杖を振りかざした。一際目立つ雷の魔導石が鈍く光ると、黒雲から辺り一面に雷が降り注ぐ。詠唱者の近くには落ちないが、術の効果が切れるまで、有効範囲内の動くものを捉えて雷を叩き込む、アレンの得意技。
 地上、空中問わず、馬車の周囲を囲っていた魔物は、雷の威力に焼け焦げ、屍体も残さず消えていく。雷をかいくぐって近づいてきたものも、ヒューリィの光の矢と、グレイシアの火球が馬車への接近を許さなかった。
 上空の黒雲が消えていく。周りにいた魔物は、今の魔法で全て倒せたようだ。
「ふぅ。とりあえず、戦闘終了ってか」
 ドルトンは、円盤を右手の籠手に戻す。
「そうだな。戦闘配置、終了ってことで」
「了解」
 グレイシア、ヒューリィ、ネウロが武器を納めた。セバスチャンに馬車を止めてもらい、アレンとヒューリィを荷馬車から降ろした。セバスチャンは再び、馬車を歩くペースに合わせて走らせる。
 僕らも馬車に合わせて適当に歩いていく。
「流石だな、アレン」
 ドルトンは、すっかり疲れた表情を浮かべるアレンに声をかけた。アレンは少々鬱陶しそうな表情を浮かべながら、ドルトンの方を見る。 「まあな。これで温泉にでも入れたら、文句なんてないさ」
「だとよ、隊長」
 ドルトンは僕の顔に視線を向ける。僕はネウロの方へ視線を逸らした。
「ネウロ、それぐらいの費用は」
「あったんだがな、どっかのバカが、詐欺師の親子にくれてやったからな。今はない」
「あっ」
 ドルトンの方を見る。彼はそっぽを向き、音の出ない口笛を吹き始めた。
「そういうことでしたら、私の方から馴染みの温泉宿に話をしておきますよ」
 御者台から、ティモシーが顔を覗かせる。ドルトンは心底嬉しそうな表情を浮かべ、弾んだ声でいう。
「本当ですか。ティモシーさん」
「ええ。これも、助けていただいたお礼です」
「よかったなぁ、アレン。それもこれも、助けた俺のおかげってもんよ」
「そうかぁ?」
 アレンは眉根を寄せて、大声で自慢げに笑うドルトンを見つめる。
「はしゃぐのもいいが、肝心の奴はまだだということを忘れるなよ」
 ネウロが落ち着いた声でいう。
「別に、忘れちゃいねぇよ。分かってるさ」
 ドルトンは少し険のある声でネウロに言い返す。

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【壊乱】#001

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。 第1話。

執筆者プロフィール

長谷川雄治(はせがわ・ゆうじ)

物書きな作れるWebコンサルタント。
HTML/CSSのマークアップやWordPressのカスタマイズ案件を経験し、サービス構築やブランディング、サイト設計や戦略プランニング、各種原稿、書類作成まで担う。
独自色の強いコンテンツマーケティングの人という立ち位置も見出だしつつあり、不足しているものを補うべく、日々実践中。

2016.03.12

2018.05.02

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