【壊乱】#028

2016.03.12

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。
第28話。

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 ネウロは、馬車の進む先に目をやった。視線の先には、微かに町の影が見えてくる。町の手前には河が流れていて、中へ入るには跳ね橋を下ろしてもらわなければならないようだ。
「我々がこのまま行けば、馬車も、親子も無事に町へ入れる。ウッドフィールドへは、跳ね橋を渡るか、河を渡り切るしかないが、子どもを失ったブラックベアーはそんなもの、物ともしないだろうな」
 ネウロは、ドルトンの背中を見ながら、誰に聞かせるともなく呟いた。
「何度も言うなよ。分かってるって」
 ドルトンは、前を向いたまま、怒気を含んだ声で言う。ほおを膨らませて、短く強めに息を吐くと、僕の方へ顔を向けた。
「すまんな、ブレイズ」
「いいさ。別に」
 僕は、腰の鞘に手を触れる。ひんやりとした感触を感じていると、背中から声がかかる。
「へぇ、いい覚悟だな。ブレイズ」
 軽やかな声とともに横を通り抜けたヒューリィは、嫌味な笑みを僕に向ける。
「じゃあ、温泉宿は我々でしっかり愉しんでおくよ」
「なっ。ヒューリィ、貴様」
 ドルトンが、ヒューリィに食ってかかる。ヒューリィは、軽やかに身をかわし、ドルトンの圧力を受けないように、バックステップで距離を一定の距離を保つ。
「食事も、どんどん出してもらうからな」
「おい、さすがにそれは」
「だから、無くなる前に片付けろって」
 ドルトンは、ヒューリィを捕まえようと、必死の形相で追いかけている。馬車に揺られたアレンが、ドルトンの横を通り過ぎた。ドルトンは、追いかける足を止め、アレンの方へ顔を向ける。
「なあ、アレン」
 アレンは、疲れを残しながらも、いつも通りの怜悧な顔をドルトンに向ける。
「俺はさっさと休みたいから、ヒューリィに賛成、かな」
「お前まで」
「さっさと倒せば、スープとパンぐらいはありつけるさ」
 アレンの言い分に、ドルトンは半信半疑といった表情で、言葉を飲み込んだ。
 顔を前に向けると、ウッドフィールドと書かれた案内が見えて来る。
「ブレイズ。お前たちはここまでだ。ブラックベアーを倒すまで、街には入らぬように。いいな」
 ネウロは淡々と言い放つ。ドルトンは足を止め、ネウロの方を向いて頷いた。ネウロは手を上げて、セバスチャンに合図を送りかける。
「なぁ、ティモシーさん」
 御者台のティモシーが、ドルトンへ顔を向ける。ネウロの手が一瞬止まった。
「ウッドフィールドに、飯の旨い居酒屋はあったかな」
「ええ、ありますよ。ただ、このご時世ですから、どこも店仕舞いが早くって」
「なるほど。ありがとう」
 ドルトンは、馬車に背を向けて、荒野に向かって仁王立ちになった。ネウロの合図に速度を上げた馬車を追い、他の面々も街に向かって駆けていく。跳ね橋が馬車も人影も飲み込んでいった。
 僕は、ドルトンの隣に立ち、荒野を右から左へ眺めていく。
「随分すんなり納得したじゃないか、ドルトン」
「なに、簡単なことよ。さっさとぶっ倒して、店が閉まる前に街に入る。おまけに、風呂に入る奴らよりも先に、宿の飯もかっ喰らってやるのよ」
「なるほど、ね」
 ドルトンは前を見据えたまま、右手首の円盤に手を触れる。固定されていた円盤は、鎖の軽やかな音をさせながら、持ち主の手に握り絞められている。円盤から、ゆっくりと視線を上げると、ドルトンの顔はいつの間にか、こちらを向いていた。
「ど、ドルトン……?」
「ブレイズ。ちょいと協力してくれよ」
「えっ。な、何が?」
「本気で行くから、当たるなよ」
「はぁっ?」
 ドルトンは大きく振りかぶり、右手の円盤を僕めがけて振り下ろした。直上から振り下ろされる刃を、バックステップでかわす。地面に叩きつけられる円盤。ドルトンは円盤を手放し、宙空にあった僕の体を右手で掴みにかかる。襟元に伸びてきた手を払う。ドルトンは地面に弧を描きながら回転し、置いたままの円盤を、遠心力と鎖の力で真っ直ぐ投げてくる。着地の瞬間に刀を抜き、円盤の回転に沿わせて刃を受け流す。ほっとしたのもつかの間、ドルトンの巨体が、右拳を振りかぶったまま突っ込んできた。勢いに押されて、その場で足を滑らせる。土の匂いが鼻をくすぐり、柔らかな草のクッションを背中に感じる頃には、顔の横に大きな穴ができていた。
 ドルトンは、地面に叩きつけた右拳をゆっくりと引き戻す。崩れた体制を戻し、僕と間合いを取りながら直立の姿勢へ戻っていく。背中の向こうから、やや上気した声が聞こえてくる。
「どうした、ブレイズ」
 僕は地面に手をついて体を起こす。
「どうしたも何も」
 ドルトンは肩を上下させながら、ゆっくりとこちらに体を向ける。
「流石だな、ブレイズ。さっきの戦闘もだが、表情どころか、呼吸一つ乱さないとはな。怠けてるとはいえ、出来が違うな」
「いや、だから一体何を」
 ドルトンは、大きく深呼吸する。ドルトンの体臭に混じり、獣の匂いが漂ってくる。
「お前も、もっと汗をかけ。ブレイズ。奴らを誘き出すぞ」
「そういうことなら、先に一言」
 ドルトンは左に装備していた大盾を外した。間合いを詰め、左拳を繰り出してくる。
「言えば適当になるだろう。適当で、汗をかけるのか?」
「だから、ちょっと待てって」
 剣を納め、身をかがめてドルトンの後ろへ回る。ドルトンは右腕を動かして、円盤についた鎖で、僕の足を払う。
「待たねぇっての」
 バランスを崩したところへ、方向転換したドルトンの右拳が突っ込んでくる。素早く盾を外し、両腕をクロスさせてその拳を受け止める。体重の乗った一撃に、前腕が砕けそうになる。
「これから、命のやり取りをしようってんだ。仲間うちの訓練だろうが関係なしに、死ぬ気で戦おうぜ」

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【壊乱】#001

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。 第1話。

執筆者プロフィール

長谷川雄治(はせがわ・ゆうじ)

物書きな作れるWebコンサルタント。
HTML/CSSのマークアップやWordPressのカスタマイズ案件を経験し、サービス構築やブランディング、サイト設計や戦略プランニング、各種原稿、書類作成まで担う。
独自色の強いコンテンツマーケティングの人という立ち位置も見出だしつつあり、不足しているものを補うべく、日々実践中。

2016.03.12

2018.05.02

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