【壊乱】#029

2016.03.12

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。
第29話。

この記事は 約 5 分で読めます。

,

 ドルトンは顔をこわばらせながらも、口角を上げて笑って見せた。
「なるほど。でも、刃物はごめんだね」
 ほんの少し体重を後ろに流す。ドルトンの体も、拳とともに前へ崩れる。体をひねり、ドルトンの体を背中で躱す。そのまま前に出ながら、剣を抜く。巨大な背後に回る。剣の柄で、ドルトンの背中を強かに叩く。バランスを崩した体は、そのまま地面に伏すかと思いきや、その場で足を踏み出し、倒れないように踏ん張った。
 ドルトンはゆっくりとこちらへ身体を向ける。僕は、間合いを取るように二、三歩後ろへ下がる。剣を青眼に構えた。
 ドルトンは一瞬嬉しそうな顔を僕に向けたかと思うと、すぐさま真剣な表情に変わる。僕の顔を見ているようなその目は、どうやらそのずっと奥を見つめているらしい。全身に染み付いた臭いよりもはるかに強い獣臭が、足元を揺らす轟音とともに近づいてくる。
 ドルトンは、僕が外した盾を拾い、足元に投げた。僕はそれを拾い、後ろに振り返る。
「参ったね。三匹だ」
 ドルトンは円盤を手元に手繰り寄せながら、僕の横に立った。ドルトンの目は、猛烈な勢いで近づいてくるブラックベアーの成獣の群れを捉えている。ブラックベアーは先頭に一匹、その後ろ両脇に一匹ずつが位置取り、隊列を整えたまま突っ込んでくる。
「どう戦う?」
「さあね。二匹行ったら、ごめんね」
 ドルトンの問いを放ったらかしにして、僕はまっすぐ前に駆け出した。黒い塊がグングン近づいてくる。
「おい、ブレイズ。くそっ、自由人め」
 ドルトンほどの自由人も、僕は知らない。一瞬後ろに目をやると、ドルトンは左の方へ駆け出していた。すぐに目を前に戻す。ブラックベアーの一匹が、ドルトンの方へ向かう。
「二匹は、こっちかっ」
 目と鼻の先までブラックベアーが迫る。右へ方向を変える。隊列の右側にいたブラックベアーが、進行方向に立ちはだかった。右手は振りかぶられている。
「くそっ」
 背後に猛烈な圧力を感じる。剣を下段に構え、熊の動きに合わせて上に飛ぶ。目の前に迫る爪を、そのまま両手で切り上げる。手首から上が鮮血を吹いて宙空に舞う。ブラックベアーの胸、肩を踏みしめ、その後ろへ跳びながら、体の向きを変える。右手首を切断された熊はわずかに動きを止め、猛然と迫ってきていたもう一匹は、落下地点へ走り込んで来る。
 右手に握りしめていた剣を、走り込んで来るブラックベアーへ投げた。熊は剣を避け、なおもこちらへ突っ込んでくる。僕の足はようやく地面を掴んだ。腰の宝剣を逆手で抜く。熊は、跳んだ。爪を振りかぶった巨体が、グングン近づいてくる。爪に向かって、駆けた。宝剣を熊の身体に沿わせながら、熊の背後へ走り抜けた。振り抜いた宝剣の刀身には、魔獣独特の紫の体液が滴っていた。
 顔を上げると、目の前には右手首を失った熊が、仁王立ちになっていた。そこから先を失った右手首からは、止めどなく血が流れ出している。
 ゆったりとした動きで、僕と一定の間合いを取りながら、右へ右へと弧を描いて動いていく。呼吸も大きな乱れはない。
 僕はチラリと目をそらす。地面に突き刺さっただろう剣を探す。剣は、熊の後ろにあるようだ。身体で剣との間を塞ぐ、熊。後ろでも、何かが起き上がる気配がする。二匹に囲まれた。
 目を広く走らせる。もう一匹のブラックベアーと差し向かいになったドルトンは、武器を放り捨てている。幾らかの切り傷を体に負いながらも、固く握った拳でブラックベアーを圧倒していく。
 背後の熊は、表皮に傷を負っているものの、ダメージは浅いらしい。
 前を塞いだ熊、後ろを抑えている熊が、同時に間合いを詰めてきた。僕は、前へ身体を進める。熊の短い股の間に身体を滑り込ませた。熊の後ろへ抜け、地面に突き刺さっていた剣を拾い上げる。宝剣を鞘に収め、剣を構え直して、二匹の熊と向かい合う。
 右手首を失った熊が振り返る。一気に間合いを詰め、熊の頭上まで跳んだ。
 大上段に構えた剣で、そのまま下まで真っ二つに切断した。大量の鮮血が全身に浴びせられる。もう一匹の熊が、四つ足で一気に間合いを詰めてきた。真っ赤な鼻っ面とすれ違いざま、そのまま首を跳ね上げた。首を失ってなお、勢いのまましばらく走った身体は、ゆっくりと地面に倒れ込んだ。
「おおおおらあああああぁぁぁっっ」
 ドルトンの怒号に顔を向ける。ドルトンは、熊の身体を抱え込み、ジャーマンスープレックスを決め込んでいた。脳天を地面に叩きつけられたブラックベアーは、しばらく泡を吹いていたが、わずかな体の震えも、止めてしまった。
 剣を鞘に収めながら、ドルトンの元へ向かう。ドルトンは、円盤と巨大な盾を拾い上げ、こちらに近づいてくる。
「また派手にひっかぶったな、おい」
「そういうドルトンこそ、傷だらけじゃないか」
「傷は男の勲章よ。さあ、さっさと風呂に入って、この臭いなんとかしようぜ」
 ドルトンはたっぷり汗をかき、爽やかな顔で街の方を見つめる。先に街の方へ歩き出したドルトンを追いかけ、ウッドフィールドに通じる跳ね橋へ向かった。

この記事から読み始めた人へ

最初から読みたい人はこちらをご覧ください。

【壊乱】#001

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。 第1話。

執筆者プロフィール

長谷川雄治(はせがわ・ゆうじ)

物書きな作れるWebコンサルタント。
HTML/CSSのマークアップやWordPressのカスタマイズ案件を経験し、サービス構築やブランディング、サイト設計や戦略プランニング、各種原稿、書類作成まで担う。
独自色の強いコンテンツマーケティングの人という立ち位置も見出だしつつあり、不足しているものを補うべく、日々実践中。

2016.03.12

2018.05.02

Loading...
Facebook Messenger for Wordpress