【壊乱】#031 【壊乱】#031

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 慌ただしい足音で、目が覚めた。複数の硬い靴の音は、少しずつ遠ざかっていく。音を追いかけて、開ききらない目を横に動かす。窓から差し込む光は、まぶたの裏から脳を刺激する。
「お、やっと起きたか」
 ドルトンがドアを開ける。身体中の筋肉が微妙に重い。ゆっくりと体と頭を起こしていく。アレンのベッドは綺麗に整っている。ドルトンは、自分が使っていたベッドを、太い指に似合わぬ繊細な動きで整えていく。
「で、どうする?」
「どうって?」
「夕べの、占い師のところだよ」
 ドルトンの顔がこちらを向く。テーブルの上で、紙片が光を受けていた。
「ああ、そういえばそうだっけ」
 頭に血が巡り始める。ベッドから起き上がり、怠さが少しでも抜けるように、身体を動かしていく。
「でも、朝早くから行って、大丈夫なのか?」
「何言ってんだ、お前? もう、いい時間だぞ」
「えっ?」
 慌てて、部屋中に視線を巡らせる。窓外の太陽は、朝というには確かに高い気がする。
 鷹揚とした足音が、部屋の前で止まる。開けっ放しのドアが軽く叩かれる。身支度がすっかり整ったヒューリィが立っていた。
「お目覚めかな? 隊長さん」
「ああ、まあね」
「それじゃあ、早速、出発前のブリーフィングと行きたいんだが、ネウロの部屋まで来れるかな?」
「は、えっ? しゅ、しゅっぱつ? もう? ああ、りょ、了解っ」
 引っ掛けておいた上着を羽織り、靴に足を入れる。僕の身支度を途中まで見ていたヒューリィは、身を翻して廊下の奥へ身体を向ける。
「ちょい待ち」
 ドルトンの声に、ヒューリィが動きを止める。ゆっくりとこちらに振り返る。
「その話、食堂でできないか?」
「内密な話もあるのでね。できれば部外者のいないところで話をしたい、との意向だが……」
 ドルトンの方を見ていた目が、僕に向けられる。僕は、止まっていた手を動かして、上着のボタンを留めていく。
「……、分かったよ。確かに食糧は貴重だし、途中で倒れられても困るしな。話は通しておく。食堂で待っているよ」
 ヒューリィは、踵を返して廊下の奥に進んでいった。
「すまん、ドルトン」
 ズボンのベルトを留め直し、細かい荷物をポケットに詰めていく。卓上の紙片をつまみ上げ、地図を眺めてから、上着の胸ポケットに押し込んだ。
「やっと起きたのか?」
 ドアを見やると、アレンが部屋に入ってきた。ベッドの奥で荷物をまとめていたドルトンの側に立ち、自分が持つ荷物を見繕っている。
「アレンはよく眠れたな。今夜からは、僕も魔法をかけてもらおうかな」
「魔法? ああ、あれはただの耳栓だ」
 アレンはポケットから小さなゴムの塊を取り出し、手のひらに乗せた。
「魔法とか、耳栓とか、何の話だ?」
 アレンの後ろから、背中と両手に荷物を持ったドルトンが顔を覗かせる。
「誰かさんのいびきで、隊長が寝坊したって言うからさ」
「ほぅ、それはいかんな。どこでも寝られるように、訓練せんとな」
「いや、そういう意味じゃなくて……」
 不意に、ドアがノックされる。そちらを向くと、ヒューリィが戸口に立っていた。
「準備はよろしいかな? こちらはすっかり用意が整って、待っているんだが」
「おお、すまん。今行く。ほれ、行くぞブレイズ」
 ドルトンは荷物を抱えながら、僕の背中を押した。ヒューリィは身をひるがえして、廊下を進んでいく。荷物を抱えたドルトンが、その背中を追いかける。
 ベッドサイドに置いてあった宝剣とポシェット、剣を腰に巻きつけ、ドルトンの後ろに付いたアレンを追いかけて、部屋を後にした。

長谷川 雄治

長谷川 雄治はせがわ ゆうじ

2013年から、仮面ライターを掲げて活動中。
物書き&Web制作、コンサルティングが本業だと思い込んでいる、ただの変な人。