【壊乱】#037

2016.12.29

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。
第37話。

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「ネウロと一緒に、フォレスタへ向かった方が良かったかもな」
 屋敷を出たところで、ドルトンはいった。
「わざわざ立ち寄るほどのネタはなかったしな」
 ドルトンは、アマンダの方を見やる。
「あんたも行かないか? あの腕っ節があれば心強いんだが」
「いえ、私はこちらのお世話がありますから」
「そうか。それは残念だ」
「お断りしておいて厚かましいんですが」
 アマンダはポケットから包みを取り出し、ドルトンに差し出した。
「これは?」
「お花の種です。水がなくても育つ、特別な種です。サウスルドルフに立ち寄ることがあれば、街の北東部にある墓地に、これを蒔いてもらいたいんです」
「サウスルドルフの北東墓地、ね。確かに承った」
 ドルトンは包みを受け取り、大事そうにしまい込んだ。
「他のメッセージはいいのかい?」
「ええ。伝えたい相手はいませんから」
「了解した。きちんと約束を果たしてくるよ」
 アマンダは頭を下げ、別れの挨拶を告げると屋敷の中へ戻っていった。
「で、ここからどう行くんだ? 余計な時間を食った分、迂回する暇はなさそうだぞ」
「そうだね。戦況もあるし、急いだ方がいいのかな」
 丘の中腹から街を見下ろす。街を東西に貫く目抜き通り、ルートセブンの行く先は完全に森の中へ吸い込まれている。
「あの婆さんが、森を抜けられるお守りさえくれてればな」
「その件なら、きちんと教えてもらったよ。材料ももらった」
 アレンが、バーバレラからもらった袋を取り出した。
「これに、炎の魔導石を砕いて混ぜればいい。ただし、片道の材料しかもらってない。帰りは当てにするなよ」
「じゃあ、とりあえず森だな。森」
 ドルトンは足早に坂を下っていく。街の外側をぐるりと囲う堀や壁を越えて森へ入るには、ルートセブンまで戻るしかない。ドルトンの後ろを、グレイシアが気だるそうに歩いている。
「アレンは、さっきの話をどう思う?」
 アレンは、僕の隣で赤い魔導石を探りながら歩いている。
「神殺しのタブーは当然だろうな。理屈には合わんが、上位の存在を下位のものが殺したり、食ったりしてはいけない、というのはよくある話だ。その場合は、とんでもない呪いや災いを受けるとかな」
 手頃なサイズの赤い魔導石をより分け、顔を上げる。
「魔獣とか、例のドラゴンが神様とかその眷属だとは思わないが、まだ人が滅んでいないところを見ると、オーウェンも殺しはしてないんじゃないか。殺したという話が残っている理由、オーウェンが実際になにをやったのか。そっちの方が気になるかな」
「なるほど、そうかもね」
「ま、実際にオーウェンの役をやるのはお前だろうから、俺らは必死に露払いをするまでだ。せいぜい頑張れよ」
「えっ、ちょっ」
 アレンは笑いながら、僕の背中を叩いた。
「と、冗談もここまでだな。あっちは頼む」
 アレンは、懐から封書を取り出した。僕にそれを押し付け、あっちへ行けと手を振ると、自分はお守りの生成にかかった。アレンが顎で示した先には、森へ続く門と、それを守る衛兵とやり取りをしているドルトンがいた。
「遅いぞ、ブレイズ。この分からず屋をなんとかしてくれ」
「分からず屋とは失礼な。許可なくここを通す訳には行きません」
「許可って、討伐隊のことは知ってるだろう?」
「討伐隊の方々は、すでに通られましたよ」
「だから、別部隊だって」
「証拠がなければ、いかなる方々も通せません」
「証拠ったってなぁ」
 ドルトンの視線が手元の封書に留まる。
「それは?」
「これ? さっきアレンから渡されたんだけど」
 封書をドルトンに渡しながら、後ろのアレンを見やるが、彼は自分の作業に集中している。手元の袋で細い白煙が上がっているらしい。 「これは、アレキサンドリア国王の書簡。確かに討伐隊の方々でしたね。大変失礼いたしました」
 衛兵は、開封された封書を持って隣の小屋へ入っていった。窓から、封書の控えを取る姿、割り印を施す姿が見える。
「婆さんは、きちんと助けてくれてるよ」
 お守りの生成を終えたアレンが、門のそばまでやってきた。
「魔法の偽造文書だ。何にも書いていないが、見た相手に幻術をかけるらしい。封書を回収したら、堂々と通り抜ければいい」
 小屋を出てきた衛兵は、割り印を押した封書を差し出した。
「ただいま、門を開けますので」
「あ、ああ。ご苦労様」
 封書を懐にしまう。ちらりと見ると、印影が消え始めていた。
 衛兵は、歩行者用の通用門を開けてくれた。グレイシア、ドルトン、アレンと門を通り抜けていく。
「ご武運を」
 僕が門を通り抜けると、衛兵は敬礼を残して街の中へ戻っていく。目の前には堀にかけられた跳ね橋と、その先にある限りない森が広がっていた。

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【壊乱】#001

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執筆者プロフィール

長谷川雄治(はせがわ・ゆうじ)

物書きな作れるWebコンサルタント。
HTML/CSSのマークアップやWordPressのカスタマイズ案件を経験し、サービス構築やブランディング、サイト設計や戦略プランニング、各種原稿、書類作成まで担う。
独自色の強いコンテンツマーケティングの人という立ち位置も見出だしつつあり、不足しているものを補うべく、日々実践中。

2016.12.29

2018.05.02

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