3年目のタッパーウェア(仮)

2016.12.29

ラブストーリーの競作へ向けた1本目。とりあえず、600字というところを1200字にして頭からお尻まで書いてみる。
ラブストーリー感少なめ、表現の練り上げも浅めのイマイチ感が強いですが、とりあえず晒してみます。

この記事は 約 3 分で読めます。

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 なんで、こんなことしてるんだろうーー。
 見慣れた気がする部屋で、記憶にある背中よりほんの少し贅肉がついた気がする男の料理を見守っている。
 明後日の昼には引越しの業者が来て、部屋を引き払わねばならないのに、偶然見つけたタッパーを返そうと連絡を取ったらこの通り。
 3年ぶりに見た顔は、当時と同じ微笑みを浮かべてさも楽しそうに角煮を仕込んでいる。
「ごめんね。忙しいって言ってるのに引き留めて」
「別に。いいの。荷造りの息抜きにもなるし」
「寂しくなるなぁ。実家に帰るんだって?」
 寂しくなる? 今まで連絡の一つもよこさなかったのにーー、と喉まで出かかった言葉を、お茶と一緒にお腹に落とす。
 物持ちのいい人だとは思っていたけれども、同棲を辞めてから3年たっても、昔と変わらないマグカップを私に使わせるのは、さすがにどうかと思う。おまけにこの部屋ーー。
「なんで、このマンションなの? それも昔は住めなかった広い方の部屋だし」
「たまたま、ね。この辺が住みやすいのは知ってたし、和美の勤務先も幼稚園も近くだし」
 鼻の頭を掻いて、笑って誤魔化す癖も昔と変わらない。住人は相応に歳をとり、長年使われた家具は日に焼けて、生活感を醸している。この空間に馴染んでいないのは、ヨソ者の私だけ。
 キッチンから漂ってくる醤油の香り。弱火で煮込まれている音がリズミカルに聴こえてくる。
「実家に帰るんだったら、これで美味しいものでも食べてよ」
 広美は、厚みのある封筒を目の前に置いた。
「今のオレがあるのも、早苗のおかげだし、世話になったお礼もちゃんとできてないし」
 真剣に話す広美の顔。一緒に暮らしていた頃から、私は彼の事を本当に愛していたのか。今となってはわからない。
「じゃあ、コレだけ」
 封筒から、2枚だけ諭吉を抜き取る。
「あと、コレも頂戴」
 マグカップも、もらって帰る。
「ついでに角煮も持って帰らない?」
「いらない」
 甘い匂いに混ざるスパイスの香り。私の知らない間に磨きをかけただろう料理なんて、私は口にしない。
 きれいに洗ったマグカップを古新聞に包んでもらう。カバンの中の、タッパーの入っていた隙間に入れる。
「じゃあ、コレで」
 家族も夢も幸せも手に入れた男は、寂しそうな目でいつまでも見つめてくる。視線をかわし、部屋を出る。
 自分の部屋へ帰る途中、カバンに仕舞ったカップを取り出し、誰もいないところで叩き壊した。バラバラになった欠片を集めて、きっちりゴミ箱に捨ててやる。
 思い出も、いらないものも、何もかも。この街に捨てていこう。
 さあ、部屋に帰って荷造りだ。

執筆者プロフィール

長谷川雄治(はせがわ・ゆうじ)

物書きな作れるWebコンサルタント。
HTML/CSSのマークアップやWordPressのカスタマイズ案件を経験し、サービス構築やブランディング、サイト設計や戦略プランニング、各種原稿、書類作成まで担う。
独自色の強いコンテンツマーケティングの人という立ち位置も見出だしつつあり、不足しているものを補うべく、日々実践中。

2016.12.29

2018.04.30

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