【壊乱】#040

2017.04.11

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。
第40話。

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「相変わらず、大袈裟な太刀筋だこと」
 グレイシアは周囲に目を配りながら、空気をかき混ぜるように剣を振るった。大ぶりの蜂が数匹、一振りで切り刻まれる。切っ先の軌跡を辿って、怪しげな色の体液が尾を引いた。
 グレイシアの向こうに、忍び寄ってきた野兎が牙をむいて飛びかかってくる。川から庭へ上がり、そのまま踏み込んで切り上げた。手を返し、剣の重みに任せて草地の紛れた蛇を上から分断する。
「重いんだからしょうがないさ」
 蛇の向こう、地面にまで突き刺さった剣を引き抜く。
「身体の使い方を知らないだけでしょう? 修行不足を得物のせいにしているようでは、ハイランドの家督は譲れないわね」
「またその話?」
 グレイシアは川の向こう、森の方へ身体を向け、剣を構えている。軽やかに、指揮者が音楽を奏でるかのごとく、剣を振るう。小さく静かにステップを踏むかと思えば、時に大胆な回旋を見せつけながら、力強く地面を踏みつける。軍服や防具に付いている金具が、小気味良い音を辺りに響かせる。
 金属音の合間に、草むらを踏んで近づいてくる音がする。振り返れば、野兎とイノシシとで群れが構成されている。その後ろで数匹の鹿がこちらを見ている。どの目にも精気が感じられない割に、敵意と殺意とが全身を圧してくる。
 最前列の野兎三匹が左右に展開し、猛スピードで飛びかかってきた。微妙にタイミングをずらし、狙いも速度もバラバラに襲いかかってくる。後ろに控えている野兎、イノシシも徐々に周囲へバラけていく。草の合間に、不自然にうねるのは、先ほどと同種の蛇か。
 右側の低い位置に跳んできた野兎を蹴り飛ばし、その勢いで身体をひねる。左側にいた野兎は、ひねりに合わせて左手で払いのけた。真正面、顔を狙ってきた個体の牙は剣で受け止め、そのまま剣を引く。
 視線を後ろにやると、グレイシアはなおも踊るように剣を振るっている。こちらを見ている気配はない。獲物の方へ視線を戻す。完全に囲まれている。足首に噛みつこうとしていた蛇の頭を踏み潰す。グレイシアの方へ頭を向けたイノシシを、首から先を斬り落とす。時計回りに弧を描きながら、群れの方へ走る。集団が一斉についてくる。仕留めきらなかった野兎がグレイシアへ向かうが、触れる間も無く、炎で灰にされた。
 走っている間に、そこここから兎、イノシシが襲いかかってくる。合間に蛇まで折り重なり、頭の上から地面まで、容赦のない波状攻撃に仕上がっている。靴の中は川に踏み入った時の水が入り込み、冷たさと気持ちの悪さとを感じてしまう。こんなことなら橋の上で対処しておけばよかったと思うものの、今は目の前の戦いに集中するべく、出来るだけ足を気にしないよう気を配る。
 兎を屠り、イノシシを屠り、蛇を屠る。集団の奥にいる鹿は一定の距離を保ったまま近づいてくる気配がない。殺気を放つと、五、六匹いた鹿は茂みの向こうへ逃げ去ってしまった。
 小屋の周囲をぐるっと回り、グレイシアの後ろまで戻る。相当数を減らしたつもりだったものの、まだまだ残っている。
「こんなところで、体力使いすぎじゃないの?」
 グレイシアは、わずかに紅潮させた顔をこちらに向ける。
「そっちこそ」
「全然。あったまってきたところよ」
 激しい動きに戻っていく。相当な数の虫、魔物を倒しているだろうに、返り血は一つも浴びていない。息が上がっている様子も、乱れている気配もない。
 真正面に陣取ったイノシシが突進してくる。軸をずらして腰を落とし、剣を水平に構えて分断する。イノシシの向こうから、野兎が突っ込んでくる。高さに合わせて立ち上がろうとするも、身体が重くなってきた。躱そうにも受け止めようにも、間に合わない。
 鼻先を掠めて火球が飛ぶ。野兎は一瞬で灰になり、灰が頭にかかる。足首に噛みつこうとしていた蛇を爪先で振り払いのけ、長々と息を吐いた。
「ハイランドの宝剣を佩いている限り、簡単に倒れることは許しません」
「そんなにこだわるのなら、返すよ。もう、ハイランドの人間じゃないし」
 背中に手を回し、宝剣を外しにかかる。グレイシアは、その手を押さえ、僕に飛びかかってくる魔物を屠っていく。
「こんなところで返されてもしょうがないわ。全てが終わってから、母の墓前で返してもらうから。いいわね、愚弟」
 形にこだわり過ぎではないのか? グレイシアは指先から炎を出すと、僕の剣に当てる。炎は刀身を包んでいく。これで柄も熱くなければ文句はないのだが、そんな気の利いたサービスは提供してくれない。
 敵の方へ目を向ける。だいぶ減らしたが、まだ草地に広がっている。
「本当にやるよ? 後は頼んだからね」
「何のこと? あなたが加減すれば済む話でしょう」
 グレイシアは早々に剣を鞘に収めたらしい。手の中の熱さもそろそろ耐えられない。小屋の位置、道路の位置、草の刈り込み具合を頭に入れる。飛びかかってきた野兎を切りながら、思い切って草地に叩きつける。刀身から移った火は、草を燃やしながら魔物を焼いていく。草むらに隠れていた蛇も水を求めて川へ向かうものの、途中で力尽きて動きを止める。
 瘴気が燃える臭いというのは、決していい臭いではない。グレイシアは濡らしたハンカチで鼻と口とを塞いでいた。

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【壊乱】#001

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執筆者プロフィール

長谷川雄治(はせがわ・ゆうじ)

物書きな作れるWebコンサルタント。
HTML/CSSのマークアップやWordPressのカスタマイズ案件を経験し、サービス構築やブランディング、サイト設計や戦略プランニング、各種原稿、書類作成まで担う。
独自色の強いコンテンツマーケティングの人という立ち位置も見出だしつつあり、不足しているものを補うべく、日々実践中。

2017.04.11

2018.05.02

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