【壊乱】#041

2017.05.02

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。
第41話。

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 肌には熱を、目と鼻の奥にはピリピリとした刺激を感じる。盛大に燃え広がる様子はない。周囲を取り囲んでいた小型の魔物は、殺気とともに離れていく。
 身体に悪そうな黒い煙が立ち上るのを眺めていたら、風に煽られた炎が小屋の方へ向かう。丸太を組み合わせたログハウス風の小屋に火がつけば、勢い良く燃えそうだ。と、のんびり眺めている場合でもない。剣を鞘に納め、小屋の周囲へ目をやる。バケツの一つや二つぐらい、その辺りに……。
 後ろから背中を小突かれた。
「ボサッとしない」
 グレイシアはバケツを持った手を差し出している。左手は空のままだ。右手に下がるバケツとグレイシアの顔を交互に見つめる。その顔はムスッとしたまま、微動だにしない。
「何?」
「いいえ。何も」
 バケツを受け取り、川へ走る。バケツに水を汲み、小屋に迫る火を消した。もう一度川の水を汲み、周囲でまだ燃えている火も消しに行く。草の上で燻っている火は、上から踏み消した。
 小屋の周囲を見回すと、立派な手洗い場が付いている。近くに馬を繋ぐこともできるようだ。手押しポンプの蛇口の下にバケツを置いた。
 水道も引いてありそうだが、ポンプにはサビが浮かんでいた。指でなぞらなくても、分厚い砂埃に覆われているのが分かる。
 手洗い場から振り返ると、小屋に入る小さなドアがあった。勝手口だろうか。単なる休憩所というには、立派な造りに思える。かつては食堂も栄えていたのか、メニューの書かれた看板が、ドアの横に置いてあった。
 視線を感じて振り返る。グレイシアが腕を組んで立っていた。
「警戒を怠らない」
「ごもっとも」
 小屋の向こうも見えるように、庭の方へ出る。川の向こうからも、周囲の森からも怪しい気配は感じない。茂みの向こうに人影が見えることもない。
「そんなに心配?」
 隣に立ったグレイシアの声は、なんだか棘があるように聞こえる。
「そりゃあ、まあ」
「自分が一緒なら助けられる、とでも?」
 グレイシアの目は、目の奥を貫くように見つめてくる。目がピリピリするのは、さっきの刺激だけが原因ではない。
「本当に嫌な男。もし弟なら、生命はなかったわ」
 グレイシアの手が、剣の鞘に当てられる。その目と声は柔和な笑みを浮かべているが、底知れぬ殺気も含んでいる気がする。
「任務が終わるまでは、殺さないであげる。でも、限界を超えたら容赦はしないから、気を抜かないことね」
 グレイシアは、鞘から手を離しながら小屋の向こうへ歩いていく。あちらには小さなテーブルと椅子も数脚あるらしい。こちら側は、僕の持ち場と言うことらしい。
 周囲の警戒を続けたまま、身体を大きく動かす。全身の凝りを解いていく。喉の渇きや若干の空腹は覚えるものの、暖かな日差しと風通しのいい空間、草の匂いに、緊張まで解れていきそうになる。
 ずっと立っていることもない。草地に尻を落ち着け、ドルトン、アレンが姿を現しそうな方角をじっと見つめる。もっと、西の方だろうか。それとももっと、森の奥の方だろうか。見当を付けたらここからでも向かう? 自分が行けば、何とかなる、のだろうか。
 グレイシアの言うように、『嫌な男』なのかもしれない。なぜ自分が、隊長なのだろうか。
 草の匂い、森の匂いを鼻に感じながら、ゆっくりと息を吐く。警戒心を保ったまま、目を閉じて耳を澄ませる。心地よい風が身体の周りを包んでいく。身体から出ていく息とともに、思考も外に出していく……。

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【壊乱】#001

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。 第1話。

執筆者プロフィール

長谷川雄治(はせがわ・ゆうじ)

物書きな作れるWebコンサルタント。
HTML/CSSのマークアップやWordPressのカスタマイズ案件を経験し、サービス構築やブランディング、サイト設計や戦略プランニング、各種原稿、書類作成まで担う。
独自色の強いコンテンツマーケティングの人という立ち位置も見出だしつつあり、不足しているものを補うべく、日々実践中。

2017.05.02

2018.05.02

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