【壊乱】#045

2017.05.30

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。
第45話。

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 ドルトンが円盤の鎖をたっぷりと巻き取っていく。それを見ながら、化け物の高さを確かめる。ドルトンの仕込みが整ったようで、彼が先に前に出た。踏み込んだ勢いを乗せて、円盤の投擲に入る。僕はその背中へ向かって走った。  ドルトンの手を離れた円盤は、化け物の胴体へまっすぐに向かう。 「ドルトンっ」 「おうっ」  ドルトンは力尽くで円盤の軌道を変える。鎖の部分を強かに打ちつけながら、ドルトンはその場で屈んだ。差し出された小手を目掛けて片足を乗せる。ドルトンは力一杯、僕の足を跳ね上げた。凄まじい勢いで身体が打ち上げられる。  ドルトンは手を休めずに、何周分かの弧を描いて戻って来た円盤をしっかりつかんだ。余った鎖を身体の後ろに回し、円盤が動かないように全身で体重をかける。  宙に躍り出た僕を狙って、華の化け物は触手を伸ばしてくる。手前の二、三本を斬り飛ばした。下を見ると、巨大な華がこちらの動きを追いかけている。中央の開口部が、口の代わりだろうか。周りの花弁が小刻みに動いた。黄色い液体が肉厚な花弁の下に集まっている。 「ドルトン、頼む」 「分かってらぁ。むん」  ドルトンは力一杯鎖を引っ張った。敵の胴体部に巻き付いた鎖が一層食い込んでいく。ドルトンはさらに腰を落として後ろに数歩下がった。華の化け物は、その場で少し体勢を崩した。体勢を崩す最中、凄まじい勢いで刺激臭の強い液体を吐き出した。漏れた液体が、相手の触手を溶かしていく。  落下の勢いに乗せて華を斬り落とすつもりだったが、狙いを変える。華の下、膨らんだ部分のさらに下を狙って剣を突き立てた。見た目の太さ通り、中々刃が通らない。地上にいるドルトンが、揺さぶりを掛けるように鎖を引いた。さらに体勢を崩した敵の茎に両足が着く。深々と刺さった剣の柄を握りながら、下へ向かって体重をかけていくが、それでもまだ斬り落とせない。  全身で剣を押さえていたが、急に力が逃げる。下に目をやると、踏ん張っていた太い触手を切断したらしいグレイシアの姿が見えた。胴体を焼いた焦げ臭い匂いも上がってくる。状況を整理する余裕はそこまでで、あとは落下に振り落とされないように剣にしがみつくのが精一杯だった。  焦った気持ちを落ち着けると、いつの間にか、両足が地面についていた。敵に突き刺さったままの剣も、いつものように自分の手に納まっている。後ろを振り返れば華を落とされた茎や蔓の塊が残っていた。  じっと見ていると、まだ蠢いているのが分かった。斬り落とされた花は茎や蔦を、残された茎の部分は新たな花を作ろうとしている? だが、再生も途中で止められる。アレンの放った閃光が火をつけた。ゆっくりと火が育っていく。  それを見たのか、獣たちは三々五々に散っていった。武器を収め、火から距離を置く。 「流石にコレで、大丈夫か」  ドルトンは、鎖の歪みを確かめながら、自分の武器を回収していく。グレイシアは細い刀身を振り払って鞘に納めている。辺りを警戒しながらも、少しずつ燃えていく化け物の死体から目を逸らさない。  彼女を見習ってじっと見つめていると、焼けた端から黒い炭にはならず、青白い光を放って空中に霧散していく。 「いや、まだだ。留めを刺すから、皆、離れてくれ」  アレンはそういうと、長い詠唱に入った。赤い光が集まっていく。死体の向こうにいたグレイシアが、こちらに駆けて来た。僕とドルトンとは、アレンの周りで周辺の警戒に当たる。グレイシアがアレンの後ろへ回ったところで、アレンの巨大な火球が放たれた。すぐさま、目の前に転がっていた緑の塊が一気に燃え上がった。離れて立っているのに、その熱さが伝わってくる。 「あの胞子まで消さないと、どこかで再生するからな。胞子を残さないで燃やすのが一番だ」 「だったら、最初からそいつをぶちかませばいいじゃないか」 「阿呆。あの溶解液を撒かれたら、とんでもないことになる」 「えっ?」  ドルトンは、燃え上がっている死体に目を向けた。地面に広がっていた液体にも炎が映ると、激しく燃え上がる。風向きが変わって、怪しげな色をした煙がこちらに飛んで来る。 「うっ。確かに、トンデモナイ臭いだ」  ドルトンは顔をそらした。目を真っ赤にして、咳き込んでいる。僕も、さっき味わったものより数段強い刺激臭を浴びてしまった。目と鼻と、その他あらゆる粘膜が痛めつけられる。グレイシアとアレンは、何か細工をしたようで、特に変化は見られない。アレンは、口元を押さえていたハンカチを外す。 「可燃性の溶解液なんて、不用意に燃やせるか? 下手に飛び散ったら大惨事だろうが」 「飛び散らなくても、俺の粘膜は大惨事なんだが」 「ま、授業料と思って我慢するんだな」  華の化け物だった塊が完全に炭化するまで、その場でじっくり見届けた。その間、ドルトンと僕とは粘膜の痛みを和らげることに時間を割いた。アレンは地図を拡げ、現在地とこれからの行程を確認していく。 「小屋の方から、ほぼ真っ直ぐに来たんだな」  グレイシアの顔を見て、アレンが訊いた。グレイシアは小さく頷く。 「そうすると大体この辺、か」  巨大な森の描かれた地図。それを貫くように引かれている道路を指で辿る。ウッドフィールドから道沿いに進むと、途中で川と小屋が書き込まれている。そこからわずかに南西へ移動した位置。フォレスタまではまだ半分近い行程を残しているようだ。 「目印から大して離れなかったのは不幸中の幸い、か」 「だが、消耗は激しいぞ」  ドルトンが、身体を大きく動かしながら言う。 「蒸し暑さで喉もカラカラだ」 「お前はもうちょっと反省してろ。単純な幻覚に騙されやがって……」  不意に、グレイシアの挑発的な目が僕を見つめる。 「何か?」 「いいえ、別に」  グレイシアは口を押さえて顔を背けた。背中しか見えないが、肩が小刻みに震えている。アレンの目がちらりとこちらを見たが、すぐさま上へ向けられた。今の戦闘で出来た空間が、徐々に元の茂みへ戻り始めている。

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【壊乱】#001

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。 第1話。

執筆者プロフィール

長谷川雄治(はせがわ・ゆうじ)

物書きな作れるWebコンサルタント。
HTML/CSSのマークアップやWordPressのカスタマイズ案件を経験し、サービス構築やブランディング、サイト設計や戦略プランニング、各種原稿、書類作成まで担う。
独自色の強いコンテンツマーケティングの人という立ち位置も見出だしつつあり、不足しているものを補うべく、日々実践中。

2017.05.30

2018.04.30

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