【壊乱】#046

2017.05.31

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。
第46話。

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「ともかく、方針をさっさと決めて動こう」
「でも、どう動く? また、茂みを掻き分けながら進むのか?」
 ドルトンはゆっくり体操をしながらも、何かを思い出したようで苦虫を噛み潰したような顔をした。確かに、森に入った時のようなあの進み方は面倒臭い。もう一回やれと言われるのは辛い。
「さっき僕ら、というかグレイシアがやったみたいにちょっと燃やしちゃう、とか……」
「この森は力場っぽいから、それも出来るだけ避けたいが……」
 アレンは顎に手をやった。
「考え込むなら、小屋まで行こう」
 周りの茂みは、僕らのことなどお構いなしに元の状態へ戻り始めている。茂みに飲み込まれる前に動きたいが、アレンは動く気配がない。ドルトンは、我先にと、僕とグレイシアが通ってきた抜け道に向かっている。その後をゆったりとついていくグレイシアの側で、小さな煙が上がった。アレンの目がそちらに向く。
「今のは?」
「さあ。虫じゃない?」
「虫?」
 グレイシアは足を止めて振り返ったが、不思議そうな顔を浮かべるだけでドルトンの後を追いかけに戻る。アレンは顎に手をやりながら、グレイシアの背中を見つめる。
「そうか、そういうことか。ドルトン、グレイシア、ちょっと待った」
「なんだ?」
 ドルトンが足を止めて振り返る。アレンは手元のポーチを開けると、赤と青の魔道石を取り出し、短く詠唱した。手の上にあった石は細かく砕け、微細な欠片に変わる。アレンが手を開くと、微細な破片は赤や青の入り混じった霧になり、アレンの体表を覆っていく。瞬く間に色は薄くなり、その存在は完全に見えなくなった。
「今のは?」
「熱と冷気の混合魔法、かな。流石にグレイシアは用意がいい」
 アレンはしゃべりながら、新たに二つの霧を生成した。ドルトンを僕の横に立たせると、両手に握ったそれを僕らにぶちまけた。暑さと冷たさの入り混じった柔らかい何かがぶつかったかと思ったが、痛みは特に感じない。
「さ、行こう」
 アレンは地図を眺めながら、茂みに向かった。茂みの手前で杖をかざし、小さく左右に振った。杖の少し先から青々とした茂みが消え、一人分から二人分の道が出来上がった。下草も綺麗に消えていて、足元の不確かさは解消されたように思える。払った草が即座に再生する気配も、今のところないようだ。
 アレンは後ろを振り返ることなく、ずんずん先に進んでいく。離されないように、みんなで後ろを追いかける。
「で、一体どういうことなんだ?」
 アレンに追いついたドルトンは、横を歩きながら問いかける。
「単純な話だ。微弱な熱と冷気で身体を覆う。虫除けにはなる程度の微弱な奴をね。草は燃え上がらないし、完全に凍るほどでもない。少しチクっとするぐらいなら、大丈夫だろう、と思ってね」
「なるほど。で、杖にも同じ影響が及ぶ、と」
「お前にしては、察しがいいな。ドルトン」
「じゃあ、こうでもいいのか」
 ドルトンは、アレンに杖を下ろさせると、円盤を握りしめて前方に投げた。円盤と鎖の周囲に道が開かれる。遠くで地面に刺さったらしい円盤の周囲は、なぎ倒された植物が瞬時に再生していく。手元から離れれば離れるほど、開けた空間は細くなっていく。
「なるほどね。杖をずっと出してるのも疲れるだろうし、交互にやろうぜ」
「気が効くな」
「いつも通りにな」
 ドルトンは円盤を回収しながら、短く投擲しては道を作って進んでいく。僕らは後ろから開けた道を確かめつつ、後ろを追いかける。
「グレイシアがそんなことをしているとは、気が付かなかった」
「常にやっているだろうな。十分な魔力と繊細なコントロールが必要だが、才能と訓練の賜物、なんだろう」
「へぇー」
 後ろを歩くグレイシアの顔を見やる。鋭く睨み返してきた。
「自分の魔力で常にかけ続けるのは、体力も消耗するしな。なんでもないような涼しい顔して……。凄い人だよ。お前の姉さんは」
「そうだよなぁ……」
 無駄のない身のこなし、力に頼らない戦い方も、一朝一夕には身につかない。才能の影響を受けるとはいえ、魔力を高める訓練も欠かさずにやり続けたのだろう。幼い頃は全てを見ていたような気がするが、何にも見ていなかったのかもしれない。
「お前も鍛錬していれば、同じことができたかもな」
「いや、それはないな」
 ドルトンは道を作る作業を続けながら、時折こちらへ振り返る。
「ああ、一応前置きしておくと、ブレイズに才能があるとかないとか、そういう話じゃないからな」
「じゃあ、どういう話だよ」
「コイツがそういうのに打ち込めるか?」
 アレンは、小さく頷いた。
「家系を継ぐ姉ちゃんがいて、必死に頑張ってるのも分かってて。自分の周りには、俺とかお前とかが居て。おまけにあのお人好しだろ? ブレイズはどう転んでも、今のブレイズにしかなってないって」
 アレンと役割を交代したドルトンは、少し後ろに下がって僕の背中を叩いた。
「姉ちゃんには姉ちゃんの、お前にはお前のいいところがあるって」
「お気遣いどうも」
「いいってことよ。任務が終わるまでは大事な隊長さんだしな。おだてるぐらいで生還できるなら、いくらでもやるさ」
 ドルトンは、歯を見せて笑顔を作った。つられてぎこちない笑顔を返す。
「ま、生還云々を言う前に、フォレスタまで行かないとな」
 アレンは道を作りながら言う。
「確かにな。そういうことだから、頼んだぜ。アレン大先生」
「じゃあ、俺は地図を読むのに専念しようかな。誰かのおかげで、寄り道させられたしなぁ。ドルトン?」
「うへぇ。分かったよ」
 ドルトンは再び先頭に出て、道を作りかかった。アレンは後ろに下がり、地図を広げた。大して見るそぶりもなく、ドルトンにああでもない、こうでもないと指示を飛ばしていく。
 少し先に、右から左へ馬車の轍らしき深い溝が刻まれているのが見えた。
「ルートセブンに復帰した?」
 アレンは指示を止めて手元の地図を見る。
「ああ、そうだろうな。あれがルートセブンだとすると……。おい、ドルトン」
 アレンはドルトンを呼び止め、地図を見せながら進む先を指し示す。魔獣や小型の魔物に気をつけて進めば、問題なくフォレスタに辿り着けそうだ。あと少しだけ、蒸し暑い緑の中を歩いて行くとしようーー。

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【壊乱】#001

竜退治をテーマにしたオリジナル小説。 第1話。

執筆者プロフィール

長谷川雄治(はせがわ・ゆうじ)

物書きな作れるWebコンサルタント。
HTML/CSSのマークアップやWordPressのカスタマイズ案件を経験し、サービス構築やブランディング、サイト設計や戦略プランニング、各種原稿、書類作成まで担う。
独自色の強いコンテンツマーケティングの人という立ち位置も見出だしつつあり、不足しているものを補うべく、日々実践中。

2017.05.31

2018.05.02

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